【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~



明日が楽しみだよ……。
そんな気持ちを心の内側で弾ませながら聖仁の家で一晩を明かした。


翌朝、着替えを取りがてら改装の確認にマンションへと戻る。



「おはようございます。
 光輝様。工事は大至急行わせて頂いております。

 業者によりますと、納期は早くても本日の21時頃。
 何かトラブルが起きましたら、明日のお渡しとなるようです」

「なら今宵はホテルを手配しておくよ。
 無理を言ってすまない」


山内に伝えると、着替えを取りにマンション内へと踏み入れる。
作業中のものが、俺の存在に気が付いて、次々とお辞儀をしていく。


「急なことですまない。
 皆、頼む」


作業員たちを労って来る途中に購入してきた、
お菓子や飲み物を差し入れして、クローゼットルームへと足をすすめた。



昨晩の今朝だというのに、すでに一面の壁紙は張り替えられて、
空き部屋になっていた使われていない奥の部屋は、
女性が住むのにふさわしいように家具が搬入されている。



「綾音姫龍(あやね きりゅう)氏にも?」

「はいっ。
 デザインは綾音さまにお願いいたしました」


工事監督がすぐに答える。



改装の依頼により俺の結婚が、同じく学院時代の大親友の耳にも入ったことを確信する。
綾音姫龍は大親友の一綺(かずき)の母親だ。



着替えのスーツを手にしてマンションを後にすると、
今日の会場になる一族が経営するホテルへと移動した。



「光輝様、お部屋にご案内いたします」


すぐに総支配人が出迎えて、俺たち一族のみが使用できる最上階のスイートルームへと通される。


部屋へとたずねてきたホテルの美容師に髪型のセットを頼むと、
スーツに着替えて約束の時間を待った。


その場所へ、お見合いの為の着替えを済ませた両親が姿を見せた。



お見合い15分前。
俺たちは最上階の部屋から6階の桔梗の間へと通される。


桔梗の間には、まだ先客はいないようだった。
促されるままにテーブルの傍に着座して時間を待つ。



何故か緊張を感じる俺自身を知る。



「蒔田さまがご到着されました」


そう言って案内されて辿り着いた婚約相手は、
自分らしさのない振袖に袖を通して、
生気のない状態で入室してきた。



「本日はお越しくださいまして有難うございます。
 息子の、光輝でございます」


「こちらこそ、本日は私の孫娘の為にお時間を作っていただき有難う存じます。
 孫娘の如月でございます」


それぞれの家を代表するように、父と蒔田家の祖父が言葉を交わす。


そんな最中も如月は顔色一つ変えることなく、
ただ人形のように、その場にあるだけだった。


そんな如月の異変に気が付いた、母が何か言葉を紡ごうとする姿を隣で制止する。



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