【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~



今、俺の目の前に姿を見せる金糸雀が、
あまりにも変わりすぎて……。



俺が知る金糸雀は小さく囀るだけの存在ではない
真梛斗にとっては、俺の金糸雀は、野良猫だった……かっ。





そんなことを思いながら親同士が弾ませる会話に耳を傾ける。




「如月さんと少し、席を外して宜しいですか?」


会話が途切れたタイミングで、さりげなく話しかけると、
父が「あぁ、行っておいで。二人でお互いの時間を知ることも必要だね」っと、
送り出してくれる。



「さぁ、如月さん。
 ホテルの中庭へとご案内しましょう」


そう言って、さりげなくて手を伸ばすと、
流されるように彼女は俺の手をとった。



真梛斗が天国へと旅だった今、
彼女は笑うことも、歌うことも忘れてしまったのだろうか……。


何もかもを捨ててでも真梛斗を求めるように自らの羽根を引き裂く。
そんな姿に映った。



桔梗の間を出ても中庭に移動しても、
彼女は俺の問いかけに当り障りなく返事を返すものの、
その中に彼女自身の、心は感じられないでいた。


そんな彼女が、中庭に植えられている薔薇を見つめて興味を示したようににっこりと笑う。



「薔薇がお好きなんですか?」

そう問いかけるものの、それに対しての返事はなく、
彼女は自らの指先を薔薇の棘へと押し当てる。


指先に広がる紅い雫を見つめながら、彼女は小さく呟いた。


「まだ……生きているのね……」


そんな彼女の指先に、スーツに忍ばせていたハンカチを押し当てて止血をしながら、
思わず抱き寄せる。


勢いで抱き寄せた俺に戸惑うこともなく、
流されるように動かなくなった彼女。



「もう帰さないよ。
 今日から君は、俺の傍に……」




そう……君の笑顔を取り戻すまで。
そしてその先の笑顔を俺が守ってみせるから。




真梛斗……
お前も天国から見守ってくれるだろう?




こうして俺たちのお見合いは終えた。

その日のうちに、結婚を早めにあげたいということ、
今日から如月さんと共に生活を始めたいと告げた。


彼女の祖父と母親は凄く喜んでくれた。




半ば強引に推し進めた時間。
ただ今は、金糸雀の羽根を少しでも守りたくて……。
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