【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
アタシの言葉に慌てて、部屋にあった洗面所の方に近づくと、
アイツは鏡に映った自分を見て『本当だ。酷いなー俺』なんて言いながら、
苦笑いした。
「自覚したなら、ちゃんと寝てよ」
っと、懲りずに聞きづらい声で吐き出すと、
布団が敷かれたソファーベッドの方に視線を向ける。
アイツは観念したように、
ゆっくりとソファーベッドへと移動していく。
そんな背中に向かって、小さく吐き出す。
「心配かけてごめん。
もう大丈夫だから」
それだけは、声にならない声で囁く。
消灯した病室の中、
アイツがソファーベッドにゴソゴソと潜る音だけが響く。
「よかった……。
真梛斗……守ってくれて有難うな……」
その言葉を最後に、
部屋にはアイツの寝息が広がっていく。
えっ?
今、真梛斗って言った?
アイツの寝息を耳にしながら、
アタシは再び自分の身に起きたらしいことを思い返してた。
心停止した状態で発見された。
そう、アタシを診察した医師は告げた。
心停止?
その言葉を自覚して、自分自身が絶句する。
えっ?
益々、疑問しか残らないじゃん。
海に入って心停止したアタシを、
誰が救いだしたのさ?
幾ら真梛斗と出逢ってたからって、
現実問題、真梛斗が海から引き揚げてくれたなんて絶対にありえない。
それに、あっ、三橋。
三橋にもどうやって、言い訳しよう。
そんなことばかり、グルグルして焦っている間に、
無情にも太陽が昇り始めて真っ暗だった空が明るくなっていく。
あぁ、眠れないまま朝かぁー。
ベッドの上、ゆっくりと体を起こして腰かける。
今更に気が付く、アタシの体につけられた管。
えっ?何?
これっ。
アタシ、ベッドから動けないじゃん。
そう思ったとたん、看護師さんがドアをあけて入ってきた。
「おはようございます。三杉さん。
お目覚めだったんですねー」
そう言いながらアタシの手首をとって何かを確認してる。
「今はカテーテルが入っているので、
ベッドの上で今は大人しくしていてくださいね。
診察後に、先生の判断があると思います」
そのままアタシはベッドの上で、朝の検温やら血圧測定やら、
点滴の交換などをなされるままに受けて再びベッドに寝かされた。