婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
その日の晩――。
私はひとり帰宅をし、簡単に夕食を取った。
貴晴さんは今日は仕事で会食の予定があるということで、帰りは別々。
退社時間が近ければ一緒に帰宅することもあるけれど、今日のようにひとりで帰ってくることも少なくない。
シャワーを浴びてタオルで頭を拭きながら、誰もいない広いリビングに出てくる。
ソファにかけると、一日の疲れと緊張からふっと解き放たれたように力が抜けた。
頭にタオルを載せたまま、背もたれに体を預ける。
高い天井を見上げると、今日の昼休みに話していたことを思い出した。
わかってはいたことだけど、社内での貴晴さんの人気ぶりには驚かされた。
芳賀さんの話があれこれ蘇ってくると、無性にそわそわ気持ちが落ち着かなくなる。
そうだよね……あんな素敵な人が社長なら、みんな気になっちゃうよね。
私だって職場で貴晴さんに出会っていたら、きっと憧れの眼差しで見ていたと思うし……。
でも、そんな職場で貴晴さんと婚約してるなんて絶対に言えないじゃん……!?
やっと職場の雰囲気も掴めたところでそんな内情を知り、はじめに婚約者として入社しなくて本当によかったと思っていた。