婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「――ん、ん……?」


 頭を優しく包み込まれる感覚に薄らと目を開く。

 視界でタオルが揺れていて、一気に目が覚めた。


「たっ、貴晴さん……!?」


 体をよじって振り返った私の背後、ソファの後ろに立つ貴晴さんは「起きた?」と微笑んでいる。

 まだスーツのままで、帰宅したばかりのようだ。


「髪も乾かさないで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」

「ごめんなさい……」


 すぐに体勢を立て直そうとすると、貴晴さんは「そのまま」と私を背もたれへと戻してしまう。

 そうしてタオルで優しく髪を拭き直してくれた。


「いつ、お帰りになったんですか?」

「少し前だよ。そしたら、里桜が頭にタオルかぶったまま寝てたから、乾かしてあげようと思ってさ」


 わざわざドライヤーを持ってきてくれていたらしく、タオルを肩にずらしてその場で髪を乾かし始めてくれる貴晴さん。


「あの、自分でやれますから」


 そう振り返ると、「いいから」と頭を前に向けられてしまった。


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