婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
様々な種類のクラゲを堪能し、その後アザラシやペンギンなどの動物を見てはしゃぎ、ちょうどイルカショーの時間が間近に迫っていた。
屋外のステージへと向かうと、段になっている観客席にはぽつぽつとまばらに観客が集まっている。
「後ろの方に座ろうか」
「そうですね。前の方は濡れるとかいいますし……」
イルカたちの泳ぐ大水槽とステージが見渡せる一番後方のベンチへと並んで腰を下ろした。
程なくして、イルカショーのステージが始まる。
貴晴さんが言っていた通り、プロジェクションマッピングと融合したショーは見事で、見惚れてしまう素晴らしさだった。
「里桜?」
「……。あっ、はい」
呼びかけにワンテンポ遅れて反応した私を、貴晴さんはクスッと笑う。
もしかして何回も呼んでいたのかもしれないと思って、貴晴さんに姿勢を向けた。
「ごめん。真剣に見入ってるから、つい呼んでみただけ」
「ごめんなさい、何回も呼びましたか?」
「ううん。眺めてただけだよ。可愛いなって」
また〝可愛い〟とさらりと言われて、顔に熱が集まる。
「可愛くないです……」
苦し紛れに言い返した小さな声は、流れるショーの音楽に消し去られていった。