婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
私を傍らに抱いたまま、スマホを取り出す。
「――俺だ。例の会員、本日付けで規約違反により強制退会の通知を出してほしい。今後、うちのサービスは永久に受けられない手配も。それから、現場に里桜を上げたことを伝えておいてほしい」
内容から、通話の相手は和久井さんだろう。
塩顔の彼は退会させることに決め、私はこのまま会場には戻らないようだ。
貴晴さんは私を連れてエレベーターへと乗り込む。
向かった先のフロアに降り立って、「ここ……」と確かめるように周囲を見回してしまった。
そこは、初めて貴晴さんと出会った日に連れていかれた、ホテルのスイートルームのフロア。
貴晴さんはあの日と同じように、迷うことなくフロアを進んでいく。
誰もいない、わずかにクラシックの流れる静かな通路。
あの日の記憶が鮮明に蘇りはじめて、肩を抱く貴晴さんの顔をそっと見上げる。
カードキーをかざした部屋は、あの日と全く同じ部屋だった。