婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
何もかもが新しい朝



 いつも通り枕元に置いたスマホが、最大音量でアラームを鳴らす。

 その時刻は朝五時三十分。

 今までは七時に起床する生活だったけど、これからはそうはいかない。

 寝返りを打つベッドは、いつものシングルサイズの自分のベッド。

 だけど、薄暗い部屋は今まで見てきた自分の住まいとは違う、まだ慣れない高級マンションの自室だ。

 ベッドから起き上がり、スマホと一緒に置いておいたヘアクリップで髪をまとめる。

 そろりと部屋を出て洗面室へと向かい、顔を洗って歯を磨く。

 まだ寝起きでメイク前の、冴えない顔をしている鏡の中の自分と見つめ合いながら、昨晩のことをぼんやりと思い返した。

 婚姻届をいつ出しに行くかと訊かれて即答できなかった。

 私なんかと本当に結婚する気なのか……そんなこと、今更口にしたらいけないような気がして、聞かなくてはいけないと思っても言い出せなかった。

『あなたじゃないと……里桜じゃないとだめなんだ』

 耳元で囁かれた言葉と、甘く奪われた唇の感覚が、一晩経った今でも頬を赤らめる。

 どうして、そんなことを言ってくれるのかな……?

 その後、成海さんは爽やかに「一緒に住むのに成海さんもないから、名前で呼んで」と言い残し、「おやすみ」とリビングを去っていった。

< 95 / 223 >

この作品をシェア

pagetop