ポンコツ令嬢に転生したら、もふもふから王子のメシウマ嫁に任命されました
思い出のレストランに就職できたのは、奇跡だろう。

料理人として始まった人生は、楽ばかりではなかった。

創業百年と歴史あるレストランは小規模ながら伝統が続き、仕込みから調理法まで厳しい決まりが定められていた。

一年目は調理器具になんか触らせてもらえない。ひたすら皿洗いとフロアを行き来する業務ばかり。

そこで私は、お客さんがどれほどの期待を持って、レストランにやって来ているのか目の当たりにする。

二年目、三年目、四年目と、どんどんできる工程が多くなった。

すべての料理が作れるようになったのは、就職して十五年目くらい。

厨房の一角を任された十六年目に、衝撃的な事件が起きる。

総料理長であり、オーナーである人が、亡くなってしまった。

心筋梗塞だったらしい。オーナーは数十年、夜遅くまでソース作りをこなしてから朝方に帰り、数時間眠ったあと出勤するということを繰り返していた。

ソース作りはシェフが代わる代わる行うよう意見もした。しかし「秘伝のソースは誰にも教えられない」と、意見をはね除けていたのだ。
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