人生の待ち時間
グイッと前に引かれ、よろけながらタカくんを見上げた。私の瞳を見つめながら、屈んだタカくんの顔が近付いた。
「っ!?」
タカくんの瞳の中には、目を見開いた私が映っていた。
とっさにギュッと目を閉じた。「フッ」と笑ったタカくんの吐息が、唇に触れたような気がした直後、温かで柔らかなものが、私の唇に触れた。
一瞬、だったような気もするし、数十秒だったような気もする。その間私は、息を詰めていた。
その柔らかな温もりが遠ざかり、そっと目を開いた私は、はぁーっと大きく息を吐いた。
呆然としながら、目の前のタカくんを見上げると、珍しくタカくんが狼狽していた。
「ごめん!……あっ、違うんだ!いや!そういう意味じゃなくて!」
「違う?そういう意味って……」
私が戸惑いの言葉を漏らした時、タカくんを呼ぶ声が響いた。
「川崎ー!!次いくぞー!!」
「今行きます!アイちゃん、違うんだ。そういう意味で謝ったんじゃなくて……」
大声で返事をした後、私に視線を戻し、慌てて言い募ろうとするが「川崎!早く!!」と再び急かされる。
肩を落として、息を大きく吐いたタカくんは、諦めたように薄く笑った。
「アイちゃん、お疲れ様!気を付けて帰れよ」
何も返せない私から、駆け足で遠ざかっていった。
──この事が私とタカくんの、長過ぎる春の始まりだったのかもしれない。