距離感
その日は、王子と一緒に帰っていて。

ふと、要さんの話題になった。

そこで、私はカチンときたのだ。

付き合ってもいないけど、とても心配する王子を見ていたら。

本当に腹が立った。

暖かいけど、ドアが開くたびに冷気が入ってきて。

軽く身震いをする。

最寄り駅について。

改札を出て。

私は王子を見て言った。

「いい加減、要さんと付き合ったらいいんじゃないですか?」

王子はコートに手を突っ込みながら。

「へ?」と間抜けな声を出した。

「それだけ、心配するってことは、王子は要さんのこと好きなんですよ」

冷たく、言った。

「いやいや。要ちゃんと付き合うってことはないから」

かちーん。

頭で何かが切れる音がする。

整った横顔を見上げながら。

「あのですね。王子。要さんは病気になって不安定なんですよ。そこで、好きな人と結ばれたら頑張れると思いますよ」

「要ちゃんの好きな人って誰?」

…コイツは。

私は足を止めた。

信号が赤になる。

「馬鹿なんですか? 王子・・・」

「え、急にどうしたの?」

「要さんは、王子のこと好きなんですよ」

「…ぇ、それはないって」

信号が青になって王子が歩き始める。

「何で、そう思うんですか?」

「だって、俺のことオッサン呼ばわりしているし。年収の低い男なんて興味ないって平気で言ってるよ」

「それはテレ隠しですよ。要さん、王子のこと好きだって言ってましたよ」

「ああ、それはシモベ的な意味でしょ」

信号のない所で。

私は足を止める。

「王子は逃げてるだけじゃないですか?」

「・・・へ?」

再び足を進める。

「要さんは真剣に王子のこと好きなんですよ。だから、王子も真剣に要さんのことを考えてほしい。そして、本当に好きならば要さんの心の支えになってほしい」

「どうしちゃったの、カッチャン」

王子が慌て始める。

「王子は、卑怯です」

「ひきょう?」

「そうやって、中途半端な気持ちで色んな女性に優しくして。相手を期待させておいて。付き合えないとか言っているのは本当に卑怯者がすることです」

王子が黙り込む。

「王子は、要さんのこと好きだと思います。だから、付き合うべきです」

「カッチャン、俺は本当に要ちゃんと付き合うとか考えたことないから。恋愛感情とか、わかんないし」

「そこが、卑怯だ!」

声を荒らげた。

「王子は自分の気持ちに気づいてないだけだ。好きだって自覚してないだけ」

「でも、俺は本当に要ちゃんと付き合いたいって思わないし。てか、何で要ちゃんと付き合う前提で話が進むかな?」

「あー、もう。そう言って平気で男の人は裏切りますわなー」

「え?」

「今は恋愛感情なんてないって言ってるくせに。後になって相手と付き合う。ほんと、ムカつく」

「カッチャン?」

自分のアパート前に到着しようとしている。

「相手を振り回さないでほしい。優しさだけが思いやりじゃないんですよ。考えてみてください」

それじゃ、と言って。

私はアパートのほうに向かって全力疾走した。
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