嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
「なんで星名がここにいるんだ」



「なんでと言われましても。理由といった理由は無くて、ただなんとなく青柳くんがいたから入ってきちゃったって感じです」



...はい?


なんだ、その理由は。


あなたがそこにいるから引き寄せられて...的な?


うわあ、気味が悪い。


背筋が凍るわ。


さて、それはさておき、


オレはひとまず聞いてみることにした。



「星名はさ、カフェのメニューっていったら何を思い浮かべる?」


「わたし、ですか?」


「そうそう、きみ。この部屋には星名とオレしかいないから」



自分で言っておきながら、その事実を認識し、2人きりということを妙に意識してしまう。


どうした、オレ?


以前には無かった感情が、オレの奥底から静かに沸いていた。



「青柳くん、どうかしました?」


「いやいやいやいや、いやっ、べっつにぃ」


「そう...ですか。だいぶいやいや言ってましたが」


「別に大丈夫。なんも、問題ない」



ヤバイな、こりゃ。


頭もろれつも回ってない。


あの時の毒がまだ体内に残っているのか?


今さら中毒症になられても困るんだけど。


オレは1人、脳内で自分自身を制御しようと努力していた。



「あのぉ、わたしの意見を述べてもよろしいですか」


「ああ、うん。ぜひ聞かせてほしい」


「まず始めに、カフェのコンセプトを考えてみてはどうでしょう?」


「コンセプト?」



なるほど。


そういう発想は無かった。



「居心地を重視するのであれば長居できるように凝ったお料理...例えばオムライスのデミグラスソースかけとか、パングラタンとかを提供すれば良いと思いますし。
逆に、なるべく多くの方に楽しんでいただきたいなら、回転率を良くするためにドリンクメニューだけにしたりとか...ですかね。
ドリンクだけではちょっと...というのでしたら、お持ち帰り用にクッキーを渡したりすれば良いと思います」



いやあ、感心した。


すっげえ使えるわ、コイツ。


頭の回転は早いし、企画力も経営力もある。


星名にやらせれば、絶対成功するぞ。


だてにやってるわけじゃないんだな、家の手伝いも。



「ありがとう、めっちゃ参考になった。あとで朱比香が帰ってきたら相談してみるわ」


「青柳くんのお役に立てて嬉しいです!しかも...ありがとうと直接いっていただけたので、嬉しさ2倍です!」



あのさ...ほんと、リアクション大きすぎ。


その笑顔で見つめられると調子狂うから止めてくれ。


オレは心の中でそう思った。



「あのぉ、わたしも相談がありまして...」


「何?」


「ドレスか着物かどちらがよろしいかと思いまして...」


「...へっ?...あ...うん?」



突然、何の話だ?


まさか、結婚!?



「あぁ、すみません。説明不足でした。
あのぉ、わたし、ミスコンに出ることになりまして...。
それのポスター用の衣装や当日の衣装をどうしようかと悩んでいて。
赤星くんや園田さんが一生懸命提案して下さっているのに、わたし、決められなくてご迷惑をおかけしているんです」



はあ。


なんか驚いたりなんだりで訳わからないけど、ただ1つ直感的に思ったことがある。



「そんなの、簡単じゃん。星名が着たい衣装を着ればいいんだ」


「でも、わたし、特に着たい衣装無くて...」



ったく、面倒なヤツだな。


でも、オレだって慣れた。


それなら...。



「星名が星名らしくいられる服でいいんじゃねえの?」


「わたしがわたしらしく...」


「そう。会長とか百合野の意見なんて無視しろ。強引で遠慮なくガツガツ行くのがお前だろ?なら、衣装だってお前の好きなようにやりゃあいいじゃん」



オレの一言で星名の顔がパッと明るくなった。


まるで雨上がりの曇り空から太陽が顔を出すような表情。


バンッと机を叩いてから立ち上がり、



「わたし、決めました!」



といった。


「わたし、アイデアを思い付いたのでこれで失礼しますね」



椅子を寸分の狂いもないように元の位置に戻すと、特快のような速さで去っていった。


はあ。


相変わらず、疲れるヤツだ。


いつ会っても、オレを飲みこんじまうしな。


と、物思いに耽っていると



「あのあの、忘れ物しました!」



星名が再登場した。


忘れ物?


そもそも、物なんか持ってきてたか?



「青柳くん!」


「えっ、あっ、何?」


突然の大声。


不意打ち過ぎるんだよ。


心臓に悪いわ。



「青柳くん、スマホ、新しいのになさったんですよね」


「まあ、一応」



そうそう。


忘れかけていたが、あの事件でスマホをダメにしてしまったオレは願いが叶って星名パパから機種代を半分出してもらい、ニュースマホを手に入れたのだった。


「差し支え無ければ、連絡先教えていただいてもよろしいですか」


「んまあ、いいけど」



星名とはスマホが無くても遭遇してしまうため、今さらな感じがした。



「これでやっと友達ですね。これからは色々相談させていただきますね。よろしくお願いします」



彼女はそう言い残し、颯爽と去っていった。


取り残されたオレは、ひたすらカフェの構想を練っているしかなかった。
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