【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「あなたのために彼女を残していくわけじゃありません。テックのためです」
「いつまで彼女のボスでいる気だい。彼女は自分で残留を決めたんだよ」
「言われなくても知ってますよ!」
そう、私はテックに残ることにしたのだ。
一臣さんは、一緒に本体に行こうと言ってくれた。私も本気でその道を考えた。だけどやはり、これから大きな変化を経験するテックは、負荷がかかる。
なにより一臣さん自身が、刈宿さんの仕事力を信用しながらも、自分のいないテックの今後を案じていることが、私にはわかった。
だから少しの間、サポートのため残ることにしたのだ。
が、その選択は思った以上に刈宿さんを喜ばせた。最後の最後でこのふたりの溝を決定的に広げてしまった気がしなくもない。
そして私は今さらながら、一臣さんが指輪をつけていてほしいと言った理由を理解した。「まったくね」と刈宿さんがつまらなそうに言い、私の左手を取る。
「一年ももたもたしてたと思ったら、いきなりこの牽制。こういうところ、本当に子どもっぽいよね、諏訪くん」
「牽制だとわかっているなら遠慮してください」
「僕のアシスタントだ」
「明日からね」
ふたりはじっとにらみあい、やがて刈宿さんは私の手を離した。
「入籍はいつ?」
「年内には。彼女が本体に合流してからと思っています。そのほうが人事なども融通が利くので」
「じゃあ、手放すのをやめようかな」
「何度も言いますが、彼女は自分の意思で、どこにでも行けるんですよ」
刈宿さんは「冗談だよ」と片手をひらめかせ、胸ポケットから煙草を出した。
「ここは吸えるんだ。普段ならレディの前では遠慮するんだが、今日は開放的な気分でね。見逃してくれるかい?」
「もちろん。どうぞ」
私はまったくかまわなかったので、そう伝えた。彼は一本くわえると、一臣さんに箱を差し出す。
「きみもどう」
「けっこうです」
「やせ我慢もいつまで続くかな」
カチンと音を立て、革張りのライターで火をつけた。私は首をひねった。
< 139 / 142 >

この作品をシェア

pagetop