【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「諏訪さん、吸いませんよね?」
「いや……」
口ごもった一臣さんに代わって、刈宿さんが「吸うよ」とあっさり言う。
「えっ! 見たことがないです」
「そうなんだよ。ここ一年ほど、急に禁煙でもしはじめたのか、誘っても乗ってこないんだ。それ以前は怪しげな海外の煙草とか、バカスカ吸ってたよね?」
「怪しくないですよ。人の趣味にいちゃもんつけないでください」
「趣味なんて高尚なものじゃないだろ、こんなのただの依存だよ」
「僕の場合は趣味なんです」
それを聞いて、はたと思い出した。
「あの、“封印中”の趣味があるって、以前……」
プロフィールに書いてあった。いったいなんだろうと疑問だったのだ。
一臣さんは、妙に気恥ずかしそうに「それだよ」とうなずく。
「もとは父の趣味なんだ。海外の煙草や珍しい煙草なんかを集める」
「コレクターですか!」
「そう。だが煙草は長期保存できない。一定期間手元に置いたら、風味が落ちる前に吸う必要がある。延々と溜まっていくわけじゃない。そこがいい」
「なるほど」
「香水みたいに、天候や気分で吸う銘柄を変える。そうやって楽しむのが、俺にとっての煙草だったんだが……」
「なぜやめたんだい?」
刈宿さんが、どう見てもわざと、煙を吹きかける。それを浴びながら、一臣さんが「その」と再び口ごもった。それから、私のほうを見る。
「きみは、いい香りがする。たぶん……花の」
「あ……、ポプリでしょうか?」
つい袖の匂いをかいだ。自分ではわからないけれど、長年、部屋のあちこちに置いているせいで、染みついている可能性はある。
一臣さんは小さくうなずいて続けた。
「きみをアシスタントにしてから、その香りをかぐとすごく落ち着くようになった。同時に煙草の匂いというものが、非常に無作法なものに思えてきて……」
私と刈宿さんの視線を受けて、彼はらしくもなく視線を泳がせる。
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