【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
思わずため息が出た。
無理に見栄を張るつもりはなかったが、もう少しはとりつくろった自分を見せるつもりでいたのに。少なくともはじめのうちは。
諏訪さんがくすっと笑い、そっと私の手を取る。
デパートにいたときより、心にゆとりができたせいか、心臓が跳ね上がり、一気に脈が速くなる。なのになぜか、安心する。
「俺が補えたんだから、ちょうどいいじゃないか。得意な分野が重複したらもったいない」
……そういうもの?
その理屈が正しいかどうかは疑問が残るものの、私は救われた。
有能な人はポジティブだ。楽観的という意味じゃない。事実の中からプラスの側面を見つけ、活かすのがうまいのだ。
「劣等感を抱えながら大好きなものの中で暮らすなんてバカバカしい。きみがかわいそうだよ。もっと自分に手をかけてあげないと」
「精進します」
彼はいずれ本体に呼ばれ、トップ路線に乗るだろうなんて噂されている。近い将来、本当にそうなるに違いない。
なにが彼をそんなふうに輝かせ、前に推し進めているのか、わかった気がする。
私はとんでもない人と結婚しようとしているのかもしれない。
28年間、ほとんど同じ毎日を生きてきたこの私を、変えてしまう人と。
手を握り返して、そんなことを考えた。


< 31 / 142 >

この作品をシェア

pagetop