【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
口調の厳しさに、ひえっと委縮した。
「あの……」
「なら好きにすればいい。俺の許可は必要ないと、彼に伝えてくれ」
上着とネクタイと鞄を持ち、彼が自室のドアを開ける。
「6時に起こしてくれ。朝、本体に寄りたい」
「6時!」
それしか寝ない気ですか、と喉まで出かかったのを飲みこんだ。そうする必要があるから言っているのだ。
だけどどのみち、口から出ていたところで彼には聞こえなかっただろう。
返事も聞かず、ドアは閉められてしまったからだ。

6時少し前、私は身支度を済ませ、コーヒーの入ったマグカップを持って、一臣さんの部屋のドアをそっと叩いた。
「一臣さん」
返事はない。
音を立てないよう、ドアを開けて中に入る。
この部屋に入ることはめったにない。一臣さんが、なにか取ってきてとか置いてきてとか頼みごとをするときくらいだ。
彼がこの部屋で休んでいるとき、入ったことなんて一度もない。
室内は暗く、一臣さんの匂いがした。
デスクにカップを置き、ベッドのふくらみを確認する。一臣さんはタオルケットを身体に巻きつけ、壁のほうを向いて眠っていた。
考えてみたら、彼の寝顔を見るのもはじめてだ。
彼はどうやら服を着ないで寝ているらしかった。脱ぐだけ脱いで力尽きたんだろう。スラックスやワイシャツが、乱雑に椅子の背に引っかかっている。
裸の肩と腕と足が、タオルケットから出ている。どこにさわっていいのかわからず、タオルケット越しに背中のあたりを叩いた。
「一臣さん」
規則正しく聞こえていた寝息が、一瞬止まった。
ぱっと顔がこちらを向き、次いで彼が、がばっと身体を起こす。下着をはいているのが見えて、心底ほっとしたのは内緒だ。
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