【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
私は瞬時にほっとして、うれしくなってしまった。お父さまの顔は優しくほころび、私たち母娘を心から歓迎していることが見て取れたからだ。
そして一臣さんと、よく似ている。本人は『俺は母似だよ』と言っていたのだけれど、他人から見るとやっぱり似ている。
身体つきや姿勢、輪郭なども似ているし、なにより先ほど、そろってこちらを見たときのしぐさがまったく同じだった。
私は母をそっとひじでつついた。
ふたりで歩くとき、よくやるように、私の腕に手をかけていた母は、なぜかひと言も発さず、立ち尽くしている。
ようやく、なにかおかしいと気づき、私は彼女を振り返った。
母の顔は蒼白だった。
「お母さん……?」
緊張しているように見えたのかもしれない、一臣さんが立ち上がり、入口で立ち止まったままの私たちのところへやってくる。
「はじめまして、諏訪一臣と申します。父の、正親(まさちか)です」
背後に手を差し伸べ、お父さまを紹介する。お父さまもその場で立ち上がり、ゆっくりと腰を折り会釈した。
母が小刻みに震えだしたのが、伝わってきた。
「お母さん……」
「諏訪……正親……」
一臣さんが私と目を見交わす。様子がおかしいことに気づいたらしい。
母は私から離れ、目の前の一臣さんも無視し、ふらふらとテーブルのほうへ寄っていった。
「銀行にお勤めではありませんでしたか」
唐突な母の質問に目をしばたたきつつも、お父さまは慎み深く、「ええ」と穏やかに答え、うなずく。
「もうリタイアしましたが」
「臨港支店で、融資担当をなさってましたよね」
母の声は、震えているものの、力強く、引く意志がないことを感じさせる。
質問の意味を理解し、はっと悲鳴に似た声を上げたのは、私だった。
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