【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「花恋!?」
思わず両手で口をふさいだ私に、一臣さんが駆け寄った。今では母に負けないくらい、私も青くなっていた。
お父さまも、さすが当事者だけあって、この先の話がどこへ行き着くかすでに察している。母を見つめる顔色でわかる。
「花恋、説明してくれないか」
一臣さんがささやいた。私は母たちに聞こえないよう、といっても聞こえたところでなにが変わるわけでもないのだけれど──息切れを抑えて口を開く。
「私の父は、小さな事業を営んでいました。ですが銀行の経営悪化を理由に、銀行が融資を引き揚げ、倒産を余儀なくされました。身体の強くなかった父は心労で倒れ、そのまま亡くなりました」
「それ、は……」
「銀行の融資担当者は、少しの猶予もくれなかったそうです。母は伴侶を失い、さらにひとりで生活を立て直さなければならなくなった。あの担当者の冷たい顔は一生忘れない、と言っているのを、幼いころはよく聞きました」
もう一臣さんもわかったはずだ。花恋、と呼ぶ声がかすれている。
小さな部屋の中で4人、無言で立ち尽くした。
全員が理解している事実が、重くのしかかる。
間接的に、ではある。だけど。
一臣さんのお父さまは、母の最愛の夫を、死に追いやった人だ──……。


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