【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「感覚としては、というか実態もそうだけど、“父の家”だな」
「神奈川にも住んでいたことが?」
「父の勤めていた銀行は、関東南部の全域に支店がある。神奈川も含め、あちこち住んだよ。……この香り、なに?」
お鍋のふたを取った瞬間、一臣さんが鼻をひくつかせた。
「春キャベツのポタージュです」
「へえ! 新メニューだな」
「ハンドミキサーを買ったまま使っていなかったので、挑戦してみようと思って。味見をしたかぎりでは、成功した気がするんですが」
「パンがあったよな、焼こう」
ワイシャツの袖をまくりながら、こちらへやってくる。
私はふたつめのオムレツを温めようと電子レンジを開けて、ぎょっとした。オムレツがラグビーボールみたいにパンパンにふくらんでいたからだ。
「なんでしょう、これ!」
「……中が過熱されたんじゃないか?」
「あっ……」
そうか! 考えてみたらあたり前だ。そうか、半熟のオムレツは、電子レンジで温めたら別物になってしまうのか。破裂しなくてよかった。
「これから気をつけます。一臣さんは無事なほうを食べてください。まだ冷めきってはいないので」
「半分ずつにしよう。中がどうなるのか俺も知りたい」
「わかりました」
私は双方を半分に切り分け、プレートの上で交換した。加熱したほうは見事に、大きな卵焼きになっている。もう一方はとろっとして大成功だ。
「見るかぎりでは、ケチャップ以外も合いそうかな? 黒胡椒とマヨネーズとか」
「出しておきましょう」
「俺がやるよ。きみはポタージュのほうを」
「はい」
お互い、せわしなく立ち働きながら、きっと同じ心境なんだろうと思えた。手を動かしていたいのだ。
これからしようとしている話が、けっして明るいものではないとわかっているから。私たちが抱いていた楽観的な未来を真っ向から打ち消すものだと、知っているからだ。
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