【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「きみのお母さんは、どうしてる?」
「取り乱してしまってごめんなさいと、さっきメールが。母も大人ですから。お父さま個人が悪かったのではないことくらいわかってるんです」
「だからといって、旦那さんも事業も取り上げた父を、許せはしないだろう」
チン、とトースターが場違いな音を鳴らした。
いつの間にかふたりとも手を休めていた。はっと作業を再開し、私はトレイをダイニングテーブルに運び、並べた。
続いて一臣さんが、ほかほかしたバゲットの入ったバスケットを中央に置く。籐のバスケットに見えるけれど、洗える素材だ。
こういうものがほしいな、となれば、一緒にネットで探しては買った。
料理をすることに興味が持てない一臣さんも、ふたりの食事を楽しむことには積極的だった。
「おいしいよ、このポタージュ」
「本当ですね、よかった。何度か練習して、レパートリーに入れます」
「思ったとおりだ。きみは料理ができないタイプじゃない」
今回のように失敗はあれど、どうやらそのようだ。
これまでの人生で、どれほどのものを“向いていない”と退け、上達の芽を摘み取ってきたんだろう。
「お父さまは、料理は?」
「まったくできない。挑戦すらしてなかった」
「ふたり暮らしで、それで大丈夫でした?」
「男だけの生活の楽なところはね」
一臣さんが、視線をスープボウルからこちらにちらっと移した。
「“家庭”という体裁を整えることにこだわりがないことだ。毎日外食しようが、家事をすべて外注しようが、まったくうしろめたさをおぼえない」
なるほど……。
「男性の特権という気がしますね」
「いや、ダメだよ。生活能力がないなら、せめて恥じるくらいしないと。現に俺はそんな暮らしを続けて、大学に入った直後に身体を壊した」
「え!」
なにか厄介な病に倒れたのかと心配したら、高熱が出たらしい。インフルエンザでもなく、解熱剤を飲んでも数日間下がらなかったそうだ。
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