【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
中央にあるソファにうずくまり、クッションを抱く。部屋全体に染みこんだハーブの香りが、私を少し癒した。
私たちは甘かった。
お互いが同意し、生活をすりあわせ、経済的な計画もそれなりに立てて、円滑な結婚準備をしたつもりでいた。
それだけで、結婚はできないのだ。
母は負の心をエネルギーにして生きる人じゃない。今はまだ難しくても、気持ちが落ち着いたら、私のために、この結婚を祝福しようとするだろう。
私がそれを、望んでいるのなら。
クッションに顔を埋め、ため息をついた。
母にそんなことを強いる気にはなれない。これはすなわち、私の結婚というものへの覚悟が、その程度だったということだ。
長年抱いた夢が、叶いそうだったから飛びついた。
甘かった。
結婚というものを、甘く見ていた。

昼食時のカフェレストランは、近隣のOLでにぎわっている。
福原さんが彼女らを鷹のような目で観察するのを、私はデザートメニューの陰から眺めた。
「若い子って、職場にもカラコンつけていくんですねえ」
「カラコンって、目の色を変えるものですよね?」
通りかかった店員さんを呼び止め、ケーキセットをふたつ注文する。私はハーブティを、福原さんはアイスティを選んだ。
「最近はそればかりでもなくて。目の印象を変えるというか。黒目を大きくしたり、はっきりさせたり」
「なるほど」
青や緑の瞳の人がいるわけでもないのに、と思ったらそういうことか。私にはわからないけれど、見る人が見れば違いがあるんだろう。
「私、思ったんですよ、今季、アイシャドウの流行りが妙にきつい色使いなんですよね。それってたぶん、カラコンを入れた目を基準にしてるんじゃないかなって。あ、私、ひとりで語るんで、聞いてなくていいですよ」
「一緒にいるんですから、聞きます」
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