【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
封筒を見つめ、一臣さんがつぶやく。
「俺も、父を責めることはできない。そのことを謝りたい……」
「謝る必要のないことだと思います」
商売はきれいごとだけではできない。父は一方的な被害者じゃない。
複数の金融機関と信頼関係を築いていれば、一行が融資を引き揚げても事業は生き延びたかもしれない。
不況を察知し、堅実な資金繰りをしていれば、細々と不景気を乗り越えられたかもしれない。
父だって経営者だ。きっと本人も、そのことをわかっていた。
私は椅子から腰を上げ、一臣さんのそばへ行った。
「少なくとも父の命にまで、お父さまが責任を感じることはありません。事業が倒れたのは、引き金のひとつに過ぎなかったんです」
一臣さんはカウンターのほうを向いたままだ。私は彼の背中にそっと手を置いた。
「母は愚かな人ではありません。いつか必ず理解してくれます」
「そんなことを理解する義務なんて、お母さんにはないんだよ」
ようやく、顔がこちらに向けられた。
長い腕が私の肩を抱き寄せる。気づいたら私は、彼の両腕の中にいた。
「お母さんには、父を憎み、悲しみに暮れる権利がある」
静かな声を、ワイシャツに押しつけられた耳で聞いた。温かい身体におそるおそる腕を回すと、それでいいんだと教えるみたいに、抱きしめる力が強まる。
潔くて、優しい人。
なにも悪くないのに、大事な人の罪を一緒に背負える人だ。
「俺たちには、時間が必要だな」
彼が私の言葉をくり返した。
そうですね、一度ここで、足を止めないといけない。
私たちの見通しは甘かった。
一臣さんは、私の背中を数度ポンポンと叩くと、「片づけは明日でいいよ、おやすみ」と寝室へ入っていった。
私のほうを見てくれなかったので、どんな顔をしていたのかはわからない。
キッチンを使うと、寝室にも音が響いてしまう。私は言われたとおり、片づけは明日の朝に回すことにし、自室に戻った。
花柄とフリルと、優美な装飾にあふれた部屋。
「俺も、父を責めることはできない。そのことを謝りたい……」
「謝る必要のないことだと思います」
商売はきれいごとだけではできない。父は一方的な被害者じゃない。
複数の金融機関と信頼関係を築いていれば、一行が融資を引き揚げても事業は生き延びたかもしれない。
不況を察知し、堅実な資金繰りをしていれば、細々と不景気を乗り越えられたかもしれない。
父だって経営者だ。きっと本人も、そのことをわかっていた。
私は椅子から腰を上げ、一臣さんのそばへ行った。
「少なくとも父の命にまで、お父さまが責任を感じることはありません。事業が倒れたのは、引き金のひとつに過ぎなかったんです」
一臣さんはカウンターのほうを向いたままだ。私は彼の背中にそっと手を置いた。
「母は愚かな人ではありません。いつか必ず理解してくれます」
「そんなことを理解する義務なんて、お母さんにはないんだよ」
ようやく、顔がこちらに向けられた。
長い腕が私の肩を抱き寄せる。気づいたら私は、彼の両腕の中にいた。
「お母さんには、父を憎み、悲しみに暮れる権利がある」
静かな声を、ワイシャツに押しつけられた耳で聞いた。温かい身体におそるおそる腕を回すと、それでいいんだと教えるみたいに、抱きしめる力が強まる。
潔くて、優しい人。
なにも悪くないのに、大事な人の罪を一緒に背負える人だ。
「俺たちには、時間が必要だな」
彼が私の言葉をくり返した。
そうですね、一度ここで、足を止めないといけない。
私たちの見通しは甘かった。
一臣さんは、私の背中を数度ポンポンと叩くと、「片づけは明日でいいよ、おやすみ」と寝室へ入っていった。
私のほうを見てくれなかったので、どんな顔をしていたのかはわからない。
キッチンを使うと、寝室にも音が響いてしまう。私は言われたとおり、片づけは明日の朝に回すことにし、自室に戻った。
花柄とフリルと、優美な装飾にあふれた部屋。