【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~

マンションに帰り着いたとき、手にちゃんとコンビニの袋を提げていたことに驚いた。寄った記憶も買った記憶もない。習慣の勝利だ。
ワンルームの部屋は、趣味を追求しようとして挫折した名残に満ちている。シンプルなベッドに、枕カバーだけが花柄だったり、格子状に仕切られた白い飾り棚を買ったはいいものの、飾るものがなくて使いかけの電池が置いてあったり。
ローテーブルに袋を置き、その前に座りこんだ。
スーツがしわになるのが気になり、手を伸ばしてベッドの上に脱ぎっぱなしだった部屋着を引き寄せ、座ったままのろのろと着替える。
「……結婚できる?」
つぶやいた瞬間、実感が湧いてきた。
ろくに恋愛経験もない、彼氏がいたこともない、この私が。
金曜日というのになんの予定もなく、いつものようにひとりでコンビニごはんを食べようとしている私が。
毎日似たようなブラウスとグレーもしくは紺のスーツしか着ないで、それが自分に似合っているのか確かめようがないまま生きてきた私が。
登録して2か月、いい話がなく、『PRが固すぎる。もっとあなたに会いたいと思わせる内容を』と言われたものの、どうやっても改良案が浮かばなかった私が。
なにかの間違いだという思いと、ひょっとしたらという期待が交錯する。
本当に私でいいのか?
「ちょっと、冷静になろう」
ひとり暮らしの悲しいくせで、だれもいないのにしゃべってしまう。
彼自身がいいと言っていたんだから、そこは疑ってもしょうがない。
諏訪さんは適当なほらを吹いて面倒ごとから逃げることはあっても、ああいう冗談を言う人じゃない。少なくとも彼は本気だった、あの時点では。
ただし、彼の持っている情報が不足している可能性はある。
たとえば私が料理はからきしダメなのを彼は知らないだろう。プロフィールにも書かなかった。仕事ぶりには満足してもらえているようだけれど、仕事以外の部分をあまりに知らなすぎる。
ただそれは当然ながら彼も承知で、そのうえで検討したはずだ。おそらくその部分は、彼にとってはどうでもいいことなんだろう。
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