【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
買い物や思いつきをメモするときに使う、私用の小さな手帳を棚から取った。結婚相談所に登録するかどうか迷っていたころのメモが残っている。
“28歳+交際半年=29歳”“出会いとは?”“だれでもよくはない”
あれこれ考えていたことが書き殴られている。
最後に、迷いを打ち消すような“今!”という大きな文字。
あのとき勇気を出してよかった。
想像していたのとは少し違う形だけれど、ついに夢が叶うかもしれない。
小さいころから抱いてきた、今の時代、鼻で笑われてもしかたないような夢が。
『俺は結婚したいというより、“既婚者”になりたい』
よくわかります、諏訪さん。だって私も同じだから。
恋がしたいわけじゃない。好きな人がほしいわけでもない。
いつからか心の奥底に根づいて、なぜか消えることがなかった、ひそかな憧れ。
“お嫁さん”になりたい。
このチャンスを逃したら、きっともう次はない。

「お受けします」
月曜日は、諏訪さんはいつもよりはやく出社する。私はそれよりさらにはやく出社しているので、席で顔を合わせたとき、社内にはだれもいなかった。
けれど念のためガラスドアは閉めた。
私の返答を聞いて、諏訪さんは満足そうに破顔した。
「よかった。こまかいことはおいおい詰めていこう」
「こまかいこと、とは」
「住む場所とか、お母さんへのごあいさつとかさ」
そうか。
書類に記入して終わり、なわけがない。
土日の間、あれだけこの件について考え抜いてきたのに、具体的な段取りがまったく想像できていなかった。
結婚というものへの憧れが強すぎるせいか、こういった話題が身の回りになさすぎたせいか。
反応の鈍い私を、諏訪さんが首をかたむけてまじまじと見つめる。
「大丈夫? ちゃんと考えた?」
「はい。仲人さんからもご連絡をいただき、あんなすばらしい相手はいないと」
「自慢じゃないが、俺もそう思うね。それから、なんとなくフェアじゃない気がして、俺も書いてきた。写真はちょうどいいのがなかったんだが。どうぞ」
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