【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
COOの席のそばには、相談などに来た人が使うための椅子がある。彼が引き寄せてくれたその椅子に、私はお礼を言う余裕もなく、すとんと腰を下ろした。
諏訪さんも自席に座る。ヘッドレストのついたスマートでリッチなオフィスチェアをこちらに向け、内緒話をするように身を屈めた。
「よく知った相手だから、俺から話をさせてほしいと彼女に頼んだ」
「話……」
「俺でどう?」
なにを言われたのかわからなかった。硬直してひと言も発しない私に、諏訪さんが眉をひそめ、首をかしげる。
「年収も居住地も勤務地も、きみの希望にかなってると聞いたんだが」
いや、それはそうだろうけれど。そうではなくて。え?
「……どう、とは」
「俺は結婚相手さがしにエネルギーを割く気はないが、独身で生涯を終える気もないという、いわばいちばんダメなクライアントだ」
「はあ……」
「そこにこの提案だ。非常にいいサジェストをもらった。俺は結婚したいというより、“既婚者”になりたい。きみがそれを実現できる。手を組もう」
彼の言葉選びや雰囲気が仕事のときとまったく同じなので、だんだん思考が戻ってきた。そうなると、こちらからもいくつか確認事項がある。
「あの、お聞きしてもいいでしょうか」
「もちろん、なんでも」
「私の条件はまあ、仲人さんにお伝えしていたとおりなんですが、諏訪さんの条件は? その、結婚相手に求める。ありますよね」
「きみでじゅうぶんだから、この話をしてるんだ」
契約内容は精査済みです、みたいなきっぱりした口調に、再びなにも言えなくなってしまった。
なにが起こっているのか。なんだこの状況は。本当に職場か。
「一年間一緒に仕事をした。その前から仕事ぶりは見てきてる。きみ以上に有能でまじめで、謙虚な女性を俺は知らないね」
はきはきと述べ、彼は腕時計を見た。
「すまない、これから会食なんだ。返事は週明けにでも。質問があればメールしてくれてかまわない」
慌ただしくクリアファイルを鞄にしまい、「それじゃ、お疲れさま」と変わりなく出ていく彼を、私は呆然として見送った。
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