【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
薄情者、とも思ったけれど、薄情なのは私のほうかもしれない。
荷ほどきは後回しにして、掛け布団と枕を日に当てるため、ベランダに干すことにした。寝具が冬仕様のままだ。春物に替えないと暑くて寝られない。
深呼吸をして気持ちを入れ替え、久しぶりに再会した、昔の自分の分身のようなこの部屋を愛でることにした。

「五年後に残ってる決済サービスは、よくて二社だろうな。淘汰は始まってる」
会議室の大型モニターを見ながら、一臣さんが鋭く言った。
各プロジェクトのリーダークラスの人間を集めた会議だ。テックの会議は非常に手短で、通常は三十分以内、長いものでも一時間で終わる。
それを超えそうなら、その会議は“準備不十分”として仕切り直す。この会議ももうすぐ開始十五分を迎えようとしているが、すでに収束を見せている。
参加者している六名が口々に話しだす。
「その一方にうちがなるわけですね」
「もう片方は政府が税金を突っこんで、なにがなんでも普及させるでしょう」
「となると、おそらく交通系との相性がいい」
「今後の新規参入組は無視していい?」
「すでにレッドオーシャン化したことに気づいてもいない能天気な会社か、よほどの自信を持ったところかだろう。後者が現れる可能性はゼロではないが、俺がそこの人間なら、その優秀なリソースをもっと新しいサービスに注ぐな」
一臣さんのコメントに、周囲がうなずく。
そのとき、六名のうちのひとりである刈宿さんが口を開いた。
「決済サービスの運営をモメント本体に移すという話は、本当かい?」
会議室内が、さっと静まった。
質問の相手であった一臣さんに、全員の視線が集まる。
爆弾発言をぶつけられても、さすが一臣さんは眉ひとつ動かさず、持っていたペンのお尻を刈宿さんのほうへ向けた。
「……そんな話を、どこで?」
「きみの耳にも入っていないのであれば、ただの噂かな」
刈宿さんの引き際はすばやい。「忘れてくれていいよ」とにこりと微笑み、すっと気配を薄くして自分の発言は以上だと示した。
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