キスからはじまるエトセトラ
3、 俺と付き合えよ

◯ 病室


楓花 「んっ…… ふ…… 」

ベッドの上で組み敷かれ、 天馬からキスを受け続けている楓花。


天馬は楓花の手首をグッと押さえたまま力を緩めようとせず、 角度を変えながら執拗にキスを繰り返す。

最初は必死の抵抗を見せていた楓花も、 今ではそれを諦め、 天馬のなすがままになっている。


楓花 (まるで…… 食べられているみたい…… )


天馬はそれを受け入れの合図と捉えたようで、 今度は口づけを続けながら、 左手で楓花の病衣の紐を手早くほどき、 そこから中へと手を滑らせてきた。


脇腹に直接触れた指先の感触にビクリとし、 楓花が再び抵抗を始める。


楓花 「イヤっ! 天にい、 やめて! 」

楓花の叫びに耳を貸さず、 首筋に口づけながら、 手を胸の方へと移動させる天馬。

楓花 「ヤダっ! やめてってば! …… 痛っ! 」


足をジタバタさせて抵抗していたら、 激しい動きに手術部位が痛み、 顔をしかめる。


楓花 「…… っ」

膝を立ててお腹を押さえている楓花にハッとして、 天馬が身体を起こした。

そのままベッドサイドで立ち上がり、 愕然とした表情で見下ろす。


天馬 「ごめん…… 俺は…… 」

楓花が涙ぐみながら、 キッと天馬を睨みつけた。


楓花 「天にい、 酷いよ! 今日はずっと天にいらしくない! どうしてこんな事をするの?! 」

天馬 「なんでって、 俺は…… 」


楓花 「好きでもないのにキスするな! 」

天馬 「 (そんなの、 お前の方が……)」

楓花の言葉に、 天馬は小声で呟いてから、 口角を意地悪く吊り上げて言い放つ。


天馬 「お前こそ、 初めてでもないくせに何を勿体ぶってんの? 」


楓花 (…… えっ?! )

楓花 「そんな…… 酷いよ…… 」

途端にポロポロと涙をこぼす楓花。
涙はどんどん溢れ出し、 しまいには両手で顔を覆って「わーん!」と子供のように泣きじゃくる。


その反応に動揺する天馬。 困った顔をしながら頭をポリポリと掻くと、 ベッドに腰を下ろして「ごめん……」と言いながら、 ポンポンと楓花の頭を撫でる。


天馬は泣きじゃくる楓花を見ながら、 切なそうな顔をする。


天馬 「…… お前、 今、 彼氏いるの? 」

楓花は頭に置かれた天馬の手をバッと振り払う。

楓花 「そんなのいないよ! 」
(天にい一筋だったから、 そんなのいたこと無いよ!)


天馬 「それじゃあ……さ、 俺と付き合えよ」
楓花 「えっ?! 」

思わず顔を上げる楓花。


天馬はベッドから立ち上がると、 笑顔で当然のように言い放った。


天馬 「とりあえず、 退院祝いだな。 お前、 明日の午前中で退院な。 夕方になったら迎えにいくから、 家で大人しく待ってろ」

楓花 「えっ、 退院?! 付き合うって、 どういう意味…… 」


天馬はそれには答えず、 黙って楓花の病衣の紐を結び直し、 乱れた服装を整えると、 もう一度ポンポンと頭を撫でて去っていった。


病室を出て行く後ろ姿を茫然としながら見送る楓花。


楓花 「…… えっ? 」


***


◯ 翌朝、 病院の玄関前


茜の赤い軽自動車の横で、 楓花が天馬に手伝われて車椅子から立ち上がると、 天馬を見上げてからぺこりとお辞儀をする。

楓花 「あの…… お世話になりました」


天馬は助手席のドアを開けてから、 チラリとトランクに荷物を入れている茜を見て、 それから楓花の耳元に顔を寄せて囁いた。


天馬 「今日の午後6時に迎えに行く。 俺とのこと…… 考えとけよ」


楓花 「えっ?! 」

助手席から驚いた表情で見上げた楓花にニコッと笑顔を見せて、 天馬がバン!と車のドアを閉めた。


運転席に座って車のエンジンをかける茜。


茜 「さあ、 それじゃあ目の前の家へと帰りますか…… って、 楓花ちゃん、 顔が真っ赤よ。 熱がある?! 」


顔を真っ赤にしてガチガチの体勢で正面を見ている楓花。


楓花 ( 考えとけよ……って、 俺のこと…… って……。『俺と付き合えよ』っていうのは、 食事に付き合うとかじゃなくって?! )


楓花 「えええっ?! 」
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