妹ズクシッ
買い忘れなんて、とっさに口から出た出任せだったが、適当にネギを買って帰ってきた時には凛はもう部屋にはいなかった。
 きっと、俺の言ったことを守って自分の部屋(隣)に帰ってくれたのだろう。
「ずっとあんなのが続いたらさすがに身も心も持たないわ……」
「なら、私が癒してあげる」
「うわっ!?びっくりしたぁ、雪乃《ゆきの》もいたのかよ」
「陽、気づかないなんて酷い。私、凛よりも先に来てた」
「いや、どうやって入ったんだよ」
「それは極秘情報」

 彼女は相崎《あいざき》 雪乃《ゆきの》。
 苗字が同じところから彼女との関係は想像できるんじゃないだろうか。
 雪乃は俺が引き取られた家の長女で、俺の一つ下で、つまりは血の繋がらなき義妹だ。
 彼女は両親が純日本人にも関わらず、日本人離れした綺麗な顔立ちをしている。
 そのせいでいろいろあったのだが、それはまたの機会に話すとしよう。

「言わないと夕飯のおかずはなしになるぞ?」
「わたしのおかずはいつだって陽だけ。他のおかずはいらない。例えば、そこの本棚に入っているDVDとか」
「雪乃はなんの話しをしているのかな?お兄ちゃんよくわかんない」
「なら手に取って見せてあげる。ほら、ここにある……」
「わかりましたすみません!よく分かりましたから手に取って見せるのだけは勘弁してください!」
 見つかってるだけでも恥ずかしいってのに、と俺。
「それにしてもお前までマスターキーって訳じゃないだろ?」
「私はそんな低レベルな侵入魔法は使わない」
「マスターキーは魔法なのか?」
「そう。そして私がここに来た方法はもっと高度な魔法。足さえも使わなくていい」
「ほう、その名前は?」
「空間走行《ワープドライブ》」
「足使ってんじゃねぇか!」(ズビシッ)
「あふんっ♡」
 てか、それ某有名スポーツアニメのだから。
 超次元に行っちゃってるやつだから。
「まちがえた、愛情転移《ラブ・テレポート》だった」
「すごい魔法だな」(棒)
「そう、これはすごい魔法。自分を愛してくれている人の部屋に転移できるという素晴らしい魔法。これで陽が私を想ってくれている事が魔法学的に証明された」
「出来れば科学的に証明してください」
「愛は別の何かで表せるほど単純じゃない」
「ごもっともです」
 恋の計算式とかあるらしいけど、感情を数値で表せるなら、政府は非リアをなくす活動をしてくれ。
 いつか本当に非リアVSリア充の戦争が起きてもおかしくない世の中なんだし。
「で?本当はどうやって入ったんだ?」
「だから、転移魔法だって……」
「嘘をつく人はお兄ちゃん、嫌いになっちゃうかもなぁ」
「ごめんなさい本当は窓から入りました!」
 ものすごいスピードの土下座だ。
「本当の事言ってくれてお兄ちゃん嬉しい」
「私、本当のことしか言わない」
「また嘘のカウントが増えたな」
 ちなみに俺の部屋はマンションの7階である。
 雪乃もこのマンションに住んでいて、俺の部屋の下に住んでいるのだが、侵入経路はおそらくベランダの窓だろう。
「お前も帰って宿題してこい」
「それはむり」
「なぜだ?」
「陽と離れたくないから」
「お、おぅ…」
 ほとんど無表情な雪乃の淡々とした告白のようなもので、ついドキッとしてしまう。
「ほら、陽もベッドに寝転ぼ?」
「思春期の男女が同じベッドに寝転ぶとか、危険臭しかしないわ!」
「別に、私は陽になら何されても構わない」
「…っ///」
 雪乃が真剣な顔でそんなことを言うものだから、つい心がぴょんぴょんしそうになった……。
「陽、わかりやすすぎ」
「な、なんのことだよっ!」
 ――スカッ!
「動揺し過ぎ、そんなチョップじゃ私を倒せない」
「ど、動揺してねぇし!」
 ――ぽふっぽふっぽふっ。
「ふふ、私のスピードには誰もついてこれない」
 雪乃はベットの上を転がって、俺の連続チョップを避ける。
「私を倒したくば、始まりの森から出直してこい、ふははは」
「ちょ、雪乃!」
「ふぇ?」
 ――ガンッ!
 雪乃さん、ベッドの頭の方にある木の壁に盛大に頭をぶつけてしまった。
「うぅ……痛い……」
「調子に乗るからだ」
「陽、痛い……女の子の日並に痛い……」
「よくわからんのだが……てか、男の俺にそういうこと言うなよ」
「言っておかないと、陽が女の子の日に襲ってきちゃうと危険だから」
「襲わねぇよ!妹とそういう関係になる気はありません!」
「こういう本、読んでるのに……?」
 雪乃は背中をごそごそして1冊の本を見せる。
 これは『妹じゃだめですか?』という妹モノの18禁漫画だ。
「妹モノのこういうの見るなら、現実《りある》の妹に手出せばいいのに」
「妹に手出すわけないだろ!」
「大丈夫、私と陽は兄妹だけど血が繋がっていない。結婚も子作りも問題ない」
「でも、書類上の兄妹だろ?世間体的にダメだと……」
「世間体なんて関係ない。私が陽を好き、その事実だけで十分」
 雪乃の目はいつもの様に半開きだが、本気だという気持ちが伝わってくる気がした。
「まぁ、可能性的にはゼロじゃないしな」
「なら、陽、結婚しよ」
「だからってそうはならないぞ?俺には妹と結婚する気なんてないからな」
「そんな、酷い……陽、酷い……」
「はいはい、酷いお兄ちゃんですよ〜」
「そんな所も好きだけど」
「……ありがとな」
 照れてつい、お礼を言ってしまった。
「あ、しないといけないこと忘れてた」
「しないといけないこと?」
「うん」
「それってどんなことだ?」
「インターネットの書き込みを漁って、うその情報を流し込んで炎上させる遊び」
「……そうか」
 お兄ちゃん、義妹の将来が心配になってきたよ。
「じゃあやってくる」
 雪乃はそう言ってベランダに飛び出して行った。
 勝手にロープ結んで下の階から上がってこれるようにするの、やめてもらいたい。
 てか、上からのロープがもう1本あるんだが……。
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