妹ズクシッ
 そのロープはもちろん上の階の住人が垂らしたもので、上の階に住んでいるのは。
「お、おかえり、夏」
「どうしたの?なんか疲れてる?」
「ま、まぁな」

 彼女は翠《みどり》 夏《なつ》。
 彼女は雪乃の従姉妹なのだが、夏の母親が確か、養子で、夏と雪乃は血の繋がりは全くないらしい。
 あんなに小さかった彼女が今じゃ出るとこ出ている(体的に)。
 ベランダに着地すると同時に揺れる部分は直視できないほど色っぽい。
 それに対比して、顔は童顔で笑顔が子供っぽい。
 なんとも罪な容姿をしていらっしゃる我が従妹様である。
(ちなみに、従姉妹で自分より年齢が低い場合を従妹と言う。)

「ところで、何か用か?」
「用がなきゃ会いに来ちゃだめなの?」
「いや、だめじゃないけど……」
「ならよかった♡」
 夏はニコッと満面の笑みを浮かべるとさっきまで雪乃がゴロゴロしていたベッドに座る。
「ねぇ、お兄」
「なんだ?」
「ちょっとやってみたいことがあるからさ、こっちにきてくれる?」
「いいけど、なにするんだ?」
「やってからのお楽しみです」
 夏は悪戯に笑うと横の空いたベッドをポンポンと叩く。
 俺は内心ドキドキしながら夏の隣に座る。
「はい、じゃあ寝転んでね」
 そう言って夏は俺の肩を掴んで彼女の方に倒れさせる。
 俺の頭は柔らかいものにぽむっと乗った。
 この柔らかい感触、ほのかに香る甘い匂い。
 最高の枕だ……。
 そう、これは膝枕だ。
「お兄、くすぐったいよぉ♡」
 俺が頭を動かす度に、太ももに髪の毛が当たってくすぐったいらしい。
「んと、これから……こうだったかな?」
 その瞬間、俺の視界は真っ暗になった。
 目だけでなく、口もなにか大きなものにふさがれてしまっている。
「んー!んー!」
「お兄、幸せな気持ちになれてる?」
(なれてないよ!死にそうだよ!)
 俺の目と口を塞ぐもの、それは夏の胸だ。
(まって、死ぬ……、妹の胸で窒息死する!ニュースでなんて放送されるんだろうな。『高校生の兄、妹の胸で窒息死!評論家、実に羨ましい』なんて言われてしまうんじゃないだろうか……)
「って、苦しいわ!」
「ふぇぇぇ!」
 意識が途切れるギリギリでなんとか夏を跳ね除け、新鮮な空気を思いっきり吸い込む。
「はぁはぁ、妹の胸で窒息死なんかできるかよ」
「お兄、幸せじゃ……ない?」
「ある意味めっちゃ幸せだよ!でも、三途の川はもう二度と見たくない!」
「そっか…」(シュン)
 落ち込む従妹がかわいすぎる。
 どうやら彼女は今巷《ちまた》で有名な雑誌、『fiξ(フィクシー)』の彼氏の喜ばせ方集に乗っていた『ぱふぱふ』とやらをやったらしい。
 凛や雪乃の違って、穢れのない夏だ。
 なんの悪気もなしに、本心から俺を喜ばせようとしてくれたのだろうが、正直、純粋すぎて逆に危ない。
 彼女にはもう少し、世間の黒い部分を知ってもらわなければならない。
 それにしても、最近の雑誌はろくな事書いてないな、そう思った今日この頃。
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