優等生の恋愛事情
諒くんのお家は、すっきり片付いていて、きっちり掃除が行き届いていて、これが彼の仕事だと思うと「尊敬!」の一言だった。

おまけに、通されたリビングは既にエアコンが効いていて快適な温度になってるし。


「朝出るときにタイマーセットしてたんだ。帰る時間はだいたいわかっていたから」

「すごく涼しいからびっくりしちゃった」


(諒くん、本当に完璧なんだ)


初めての彼氏のお家で、初めてのお家デート。


(ああ、うちとは違う知らないお家の匂い)


ディフューザーが置いてあるせいか、爽やかなグリーンの香りが、ふうわり漂って鼻をかすめる。

壁紙の色も、観葉植物も、窓の外に見える景色も、何もかもがめずらしく見えちゃって。

きょろきょろ、そわそわ、落ち着かないったらない。


「さっそく金魚たちの引っ越しをしようか?」

「えっ。あ、うん。ぜひぜひ」

「金魚たちは僕の部屋にいるよ」

「うんっ」


(諒くんの部屋!見たい!)


もちろん、男の子の部屋なんて入るのも見るのも初めてだった。


「うわぁ。お部屋、すごく広いんだね」


最初の感想がこれって……ああ、私の語彙力。


「引っ越しのときに、広い部屋をやるからピアノも自分の部屋に置けって言われたんだよ」

「そうなんだ。うちはリビングにあるけど」

「母親がリビングにピアノを置きたくないって譲らなかったんだよね」

「リビングが狭くなるのが嫌とか、音の問題とかかな?」

「そうかもしれないね」


机、ベッド、本棚、アップライトピアノ。

そして、壁際に置いてあるチェストの上には、とっても場違いな白い鍋が……。

写真でも見せてもらっていたけど、リアルで見てなおびっくり。


(金魚たち、本当に鍋の中なんだ……)


諒くんの部屋は、漫画雑誌が積み重なってるでもなく、アイドルのポスターが貼ってあるわけでもなく、とても静かで落ち着いた感じだった。


「すごい片付いてるね」

「そりゃあ片付けたからね」

「いつもは散らかってるの?」

「掃除に支障がでそうになったら片付けるって感じかな」

「そっか、なんかほっとした」

「うん?」

「だって、私の部屋なんていつも散らかってるから」

「そうなの? ちょっと意外」

「諒くん、女子の部屋に幻想抱くと痛い思いするからね」

「いや、その散らかりっぷりとやらを見てみたいもんだと。興味深いよね」

「もうっ」
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