優等生の恋愛事情
こんなふうに話していても、やっぱりどこか緊張していた。

楽しい気持ちにも、優しい気持ちにも、必ず緊張感が混ざっていて、ひどく心が揺れてしまう。


(諒くんは、ぜんぜん普通なのに)


エレベーターの中で話したことなんて、なかったことみたいに平常どおりって感じ。

私ひとりで、わさわさ、ばたばた……。

本当、勝手に空回りして、勝手に消耗してるみたい。


(せっかくのお家デートなのにな……)


「じゃあ、はじめようか」

「えっ」

「聡美さんが持ってきてくれた金魚鉢へのお引越し」

「う、うん」


金魚たちは鍋の中で悠々と泳いでいた。


「金魚のことが心配で、日中留守の間もエアコンが消せなくて」

「そっか、それでこの部屋も涼しかったんだ」

「鍋の中の水が沸騰することはないにせよ、多少なりともあったまるかと思うと怖くてさ」

「ごめんね、お世話ありがとう」

「もう家族だからね」


(諒くん……)


お鍋の中でも元気に泳いでいた金魚たちだけど、金魚鉢に移してやると、なんだかちょっと高級な感じに見えた。


「やっぱり趣があるね」


諒くんは金魚鉢をチェストの上へ置くと、優雅に泳ぐ金魚たちをしげしげと眺めた。


「それにしても、聡美さんがあんなに金魚すくいが得意だなんて知らなかったな」

「そりゃあ誰にも言ったことないもん」


彼の隣で一緒に金魚を眺めながら、私はふふふと笑った。

涼やかな金魚鉢の中でゆらゆら泳いでいるのは、クロの出目金と、錦鯉のような模様がきれいなアカシロの金魚。

たぶん2匹とも、あのときお店にいた金魚の中では高級な種類だと思う。


「お祖父ちゃんの家で子どもの頃からやってたからね。たぶん、ポイがダメになるまで際限なくとれちゃうよ」

「すごい特技だね」

「でも、大学受験ではなーんも役に立たないし」

「自己PRで披露できないもんね」

「そういうこと」


何でもない話をしながら、金魚鉢をのぞきこんでいるふたり。


(なんか、すごく近いよっ)


静かな部屋で、ふたりきりで、互いの息遣いまで聞こえてきそうなくらいそばにいるんだもん。


(息の仕方考えちゃうくらいワケわかんなくなってきた)


「聡美さん?」

「えっ」

「喉かわいてるよね? 何か冷たいものでも」

「う、うん」

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