Fairy
毎日同じシャンプー、同じ柔軟剤を使っているはずなのに、晴雷さんだけみんなよりも柔らかい香りだ。

游鬼さんは、彼のお気に入りの香水の香り。あの香りは好みのタイプが別れるだろうから、きっと純粋な女の子は苦手な香りだろう。
例えるなら…なんだろう、都会のホストが付けるような、色っぽさのある香り。

狂盛さんは本当に無臭で、特に変な匂いもしなければいい香りがすることもない。
それが逆に心地いい時もあれば、この人は本当に人間なのだろうか、なんて少しだけ心配にもなったりする。




『 どうしたの?そんなに見て。 』

「 え?!あっ、いや…いい匂いするなぁ、って…。 」




いつの間にか無意識に晴雷さんを凝視していたらしく、面白そうに笑いながらそう聞いてくる。
慌てて否定しようとしたものの、嘘をつき慣れていない私は、本当のことを言ってしまった。

気持ち悪いって思われたかな、と思ったけど、晴雷さんは誰かにそんなことを思うようなタイプじゃない。




『 いい匂い?そうかな…自分じゃ分からないや。 』

「 うーん…なんか、お母さん、って感じの匂いです。だから、凄くて、思わず安心します。 」




そう言われると、晴雷さんは『 そう? 』なんて凄く嬉しそうに微笑んだ。


だけどその微笑みが、今まで彼が見せてきた表情の中でも、一番哀しいものだった。人はこんなに切ない表情で笑うことが出来たのだろうか、と思ってしまうほど。

返す言葉に困りながら晴雷さんを見つめていると、彼は私を見て、元の笑顔を浮かべながら、そっと私を引き寄せる。
柔らかく抱き包まれて、安心する香りがもっと近くなった。




『 じゃあ…不安な時、寂しい時。他にもそういう時があったらこうするよ。だからいつでも言ってね、紅苺。 』

「 …ありがとうございます、晴雷さん。 」




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