Fairy
游鬼さんに渡された鏡を見ると、いつもよりも大人っぽくメイクをされた私が映っていた。
真っ赤な口紅はいつもと同じで、少し伸びた前髪は横に流すようにして。
『 髪、あげて。 』
「 え、あ、はいっ。 」
ソファーに座る私の目の前にしゃがんだ狂盛さんは、無線を私の耳元に近づけてそう言った。
言われた通りに耳に髪をかけると、優しくも雑でもない力で無線をはめられる。そしてそのままネックレスをこちらへ向けてくるから、私は髪を持ち上げて首を顕にした。
狂盛さんの手が首の後ろに回って、自然と距離が近くなる。私の首の後ろを見ながらネックレスをはめていて、そのせいで少しだけ吐息が首筋にかかってくすぐったい。
晴雷さんは柔軟剤の柔らかい香り。
游鬼さんは香水の色っぽい香り。
狂盛さんは……うん、やっぱり何もしない。
『 よし、これで準備は整ったね。 』
私が狂盛さんに無線とネックレスをはめてもらっている間に、晴雷さんと游鬼さんもウィッグをセットしたらしい。真っ黒な髪をしている二人を見るのは初めてで、なんだか凄く新鮮な感じがした。
晴雷さんは真っ白な肌とは対称的な黒髪だから、凄く綺麗。
游鬼さんはいつもよりも少しだけ、少しだけ落ち着いて見えて、二人とも黒髪はよく似合っていた。
三人共、もしもの時のためにすぐ潜入出来るようにとスーツを身に纏う。その上品な姿は、どこからどう見ても殺し屋には見えなかった。
『 さ、行くよ。 』
晴雷さんの声と共に玄関の扉を開け、薄暗くなった街へと出た。
生ぬるい風は気持ちのいいものとは言えなくて、せっかくお風呂に入ったのにまた汗が流れそう。
いつものように運転席には晴雷さん、助手席に游鬼さん。そして後部座席に私と狂盛さんで座る。
晴雷さんの合図とともに、少し荒い運転で車が走り出した。