Fairy
履きなれないヒールを鳴らして、会場の真ん中にいる渢さんの方へと向かった。すると私に気がついたのか、渢さんは一瞬だけ私と目を合わせるとすぐに逸らした。
きっとこれも、桜翅に怪しく思われないためだろう。
だって私達は、今ここで初めて会う設定だから。
「 …初めまして。最近この会社に配属されたばかりの、城田 真奈と申します 」
〔 初めまして、城田さん。今日はこのパーティに来てくれてありがとう。楽しんでいってね 〕
「 はい、ありがとうございます。 」
あたかも初めて会った、社長と新入社員。
本当はこれが闇金と殺し屋だなんて、周りは思いもしないだろう。
しばらくお酒を飲みながら、すれ違う人と挨拶を交わす。
上司だと言う人、同期だと言う人、それは様々。今のところ怪しまれている様子もないし、このまま桜翅を探し出せば問題は無い。
…だけど、その桜翅が居ないのだ。
どこを見渡しても、誰の顔を見ても、彼は居ない。
どういうことなのだろう。
桜翅さんを殺すのが目的なのだとしたら、絶対にここに現れるはず。それなのに、彼はどうして一向に現れようとしないのだろうか。
《 …なかなか現れないね。 》
《 来てないんじゃない?俺らが怖くて逃げ出しちゃったのかも〜。なんてね、それは無いだろうけど。 》
游鬼さんは冗談を言いながらも、声はいつもよりも真剣なようだ。
持っていたグラスが空になって、それをテーブルの上に置く。新しいグラスを受け取ろうか、どうしようか、と悩んでいると、目の前にスッとグラスが差し出された。
『 どうぞ。 』
「 …あ、ありがとうございます。 」
グラスをくれたのは、見覚えのない男性。
綺麗なスーツを身に纏い、顔の整った男性だった。