北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「どうぞ」
 累がまた缶コーヒーをふたつ手に持って、リビングに来るよう目顔で招いた。凛乃は仏壇に向き直って、小さな額縁に入った花の写真に、改めてお願いする。
 とめ子さん、まだあと3日だけ、退去まで猶予があります。あの場の勢いでここまで来ちゃったけど、もし交渉決裂するようなら、リカバリできる体力と気力をください。
 仕上げにおりんを鳴らして、凛乃はコタツを挟んで累と向かい合わせに座った。
「拝むの、趣味?」
「は?」
 缶コーヒーを添えて、唐突な質問が差し出された。
「それか、ばあちゃんと知り合いだった?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど、そうですね、知り合いでもない人に手を合わせるのって、不自然かな」凛乃は線香の煙を見やる。「とめ子さんの写真じゃないんですね」
「花を買うとか活けるとかが、めんどくさくて」
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