北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 凛乃の身体の芯が、かあっと熱くなる。
「あの、イチゴ、食べます?」
 ごまかすために、皿を押し出した。ケーキの上には、まだ最大のイチゴが残っている。
「これなら、お口に合うかと」
「……うん」
 累は指先でイチゴのヘタをつまみ上げた。頬杖をついたまま、ひとくちでイチゴをほおばる。累の笑みがかき消えて、細い目がもっと細くなった。
「酸っぱい……」
 凛乃もこの家に来て初めて、ほどけたように心から笑った。
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