明日は明日の恋をする
ついにその時がきた。

朝になりお別れの時間だ。

私は進藤さんが仕事に行く前にマンションを出る事にした。少ない荷物を持ち玄関に向かって歩く。歩く度に頭に浮かぶ楽しかった進藤さんとの生活…。思い出す度にジワッと涙が出そうになるが、まだ泣く時じゃない。自分にそう言い聞かせ、必死に涙を堪えた。

「進藤さん…短い間だったけど楽しかった。ありがとう。」

私は玄関で靴を履き、笑顔でクルッと進藤さんの方を向いた。

『笑顔で別れて素敵な思い出にする』

私の決めた事…だから最後まで泣かない。

「明日香…お前に会えて良かった。ありがとう。」

そう言って進藤さんは手を差し出してきた。私はその差し出された手を握りしめる。

すると、進藤さんは握った手にグィッと力を入れて私を胸に引き寄せる。そして優しく抱きしめた。

「こんな事になって…悪かった。俺との生活…後悔してないか?」

「謝らないで。私は幸せだったよ。後悔なんてとんでもない。」

「次は変な男に捕まるなよ。そして…必ず幸せになってくれ。」

「ふふっ変な男って…。私も進…ケイスケの幸せを願ってるから。」

進藤さんの胸に埋めていた顔を上げると、進藤さんが切なそうな笑みで私を見てきた。

最後のキスーー

唇が離れると、私にかかっていたシンデレラの魔法は静かに解けた。

「貴方に出逢えて良かった。サヨナラ…。」

私は荷物を持ち玄関を出ようとした。足に鉛が繋いであるかのように重くてなかなか歩けない。

「…美玲さんとの結婚が決まったら、テレビとかでニュースになるのかな?有栖川財閥って有名だし。そしたらテレビ越しに言うわ。『私も今幸せです』って。じゃあね。」

最後に進藤さんに笑顔を見せ、私は前を見て歩き出した。
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