明日は明日の恋をする
ジリリリリ

隣の部屋から大音量の目覚まし時計らしき音が聞こえてくる。そのせいで起きなくてもいい時間に私は毎朝起こされていた。

「はぁ、夢か。せっかく良いところだったのに~。」

もう少しで誓いのキスが出来たのに、寸前で起こされてしまったこの怒りを、見ず知らずの隣人の部屋の壁に枕を投げぶつけた。

歩くたびにギシギシ音の出るフローリングに生活音が丸聞こえの薄い壁、まぁ一言で言うと若い女が一人で住むようなところでない古いアパートの一室に私は住んでいる。

何も快適さゼロのこの空間に好きで住んでいるわけではない。理由はただひとつ、私が貧乏だからだ。

夢の中の結婚式ではたくさんの人に祝福されていたが、実際の私には頼れる人はいない。18歳の時、家族とは訳あって決別した。連絡も一切してない。相談できる友人もいない。とにかく私は今、生きていくのに精一杯の状態だ。

そんな孤独な私だからなのか、『結婚』というものに憧れを抱いている。幸せな結婚、温かい家族・・どうやら私の妄想は夢にまで現れたようだ。

「夢の中の私、幸せそうだったな。」

夢と現実の違いを突きつけられたような感じでフゥッとため息がでる。それにしても、夢の中の私の隣にいたあの新郎は一体誰だったのだろう。思い出そうとするが、顔をよく思い出せない。

「義雄だったらいいな。」

実はこんな私にも最近運命の出会いがあり、初めて彼氏ができた。それが義雄だ。私にとって最後の恋でありたいと願う。
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