明日は明日の恋をする
コンコンッ

コンコンッ

私が幸せな夢に浸っていると、何度もドアをノックする音がする。このアパートには呼び鈴がない。

「噂をすれば・・義雄かな?」

私はウキウキしながら勢いよく玄関のドアを開ける。ドアを開けるとそこには義雄・・ではなく、全く面識のない見た目20代くらいのスーツ姿の男性が立っていた。

義雄ではなくてガッカリした私はその男性の前ではぁッと大きなため息をつく。

「何か分からないけど、営業ならお断りです。」

そう言い残して私はドアを閉めようとした。しかし男性は閉めようとしているドアを素早く掴み、営業スマイルで私を見る。

「な、何ですか?」

私は全力でドアを閉めようとするが、男性の力には敵わず閉めきれない。

水沢(みずさわ) 明日香(あすか)さん・・ですよね?うちの社長が昨日お世話になったみたいで・・。」

「社長って何の事ですか?知りませんよ。」

「昨日、あなたがお勤めしている夜のお店で・・って言えば思い出してくれますか?」

昨日の夜を思い出してみる。

私は生活費の為、夜になるとホステスとして夜のお店に勤務している。源氏名は『るな』。確か昨日は、大手企業の社長達が接待とか言ってうちの店に訪れて店の女の子達が大盛り上がりしてたっけ。

その中にいた若くて1番格好良い社長に私はご指名を頂いて、隣に座り話を聞いたりお酒を作ったりしてその場を楽しんでいた。でも、それを妬んだ他のホステス達がグルになって私を攻撃し始めた。お酒を作るのが遅いだの、気が利かないだの、言葉責めから始まり、見えないところでドンっと体を揺らされ、終いには手に持っていたお酒を社長の顔面に浴びせてしまったのだ。

お酒のせいで顔と高級そうなスーツがびしょ濡れに・・。私は慌てて謝りながらハンカチで顔を吹く。しかし、ホステス達にアンタは退きなさいとその場から追い出された。 席を離れる際にチラッと社長を見たけど、私の視線に気づいたのか社長も私の方を向き、一瞬だけどとても冷たい目つきを私に見せた。
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