My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
私は恐怖に負けないよう頭をフル回転して考える。何か、今の私にでも出来ること。
ちょっとでもいい、相手の注意を逸らすことが出来れば……。
(そうだ!)
私は歌い始めた。昔おばあちゃんが良く歌ってくれた、子守唄を。
男の動きを少しでも鈍らせたかった。
――と言っても口には布が詰まっているため、ハミングだ。
それでも狙い通り、男は焦ったようにこちらに視線を向けた。やはり男にとって私の歌は脅威なのだ。
私にとっても初めての試みだった。果たして詞無しでも銀のセイレーンの力は発揮されるのか。
どちらにしても男の注意が逸れたことをセリーンは見逃さなかった。
鋭く目を光らせ相手の脇腹に大剣を叩きつけた――かのように見えた。だが肉が裂ける嫌な音の後苦悶の声を上げ剣を取り落としたのは、セリーンの方だった。
「んんーーー!!」
私は利き腕を押さえながら崩れ落ちるセリーンを見て鼓膜が破れんばかりの悲鳴を上げる。
暗がりの中でも彼女の腕を伝い流れてくる赤いものがはっきりと見えた。そして横腹からも溢れてきたそれに私は絶望する。
「隙をついたつもりか? 甘かったな。もう剣は握れまい。今楽にしてやる」
そう言って剣を振り上げた男の背に向かって私は無我夢中で走り出す。
男はすぐにそれに気付きあっさりとその場を退いた。
私はセリーンを庇うように男の前に出て彼を睨み上げる。
「なんだ、もう歌は終わりか? やはり口を塞がれては歌は使えないようだな。……庇ったところでその女はもう終わりだ。腱を斬った」