My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
「しかし、ストレッタは銀のセイレーンの力を手に入れて一体何を企んでいる」
小屋を出てからしばらくの間無言でアレキサンダーを走らせていたフィエールが急に独り言のようにそう呟くのを聞き、私は強く頭を振った。
(だから、私とストレッタとは何の関係も無いんだってば!)
腕が自由ならすぐにでも猿轡を剥ぎ取ってそう大声で怒鳴りたかった。
身体が温まったお蔭で大分調子は戻っていた。ただ昨日から何も食べていないせいでそろそろ胃の方が限界だった。
きっとフィエールはあの小屋で何か食べたはずだ。
(まさか銀のセイレーンは何も食べないとか思ってるんじゃないでしょーね)
昨日化け物呼ばわりされたことを思い出し、ふと不安になる。
次にフィエールが休憩を取った時にはなんとか伝えたいが、おそらくはまた剣を突き付けられながら食べるはめになるのだろう。それでもこれ以上空腹に耐えるよりはましだと思った。
今、何時頃なのだろう。この山脈を越えるのにあとどのくらいかかるのだろう。昨日から一体どれほど進んだのだろう。
景色は相変わらず白に覆われていて、一昨日ビアンカに乗って悠々とこの山脈を越えた私には皆目見当がつかなかった。
わかっているのはセリーンと離れて、もう丸一日が経過してしまったということ。
(セリーン、どうしてるかな……)
あの怪我では適切な処置を受けたとしても、おそらくすぐには動けないだろう。
一瞬最悪なことを考えそうになってしまい、私はまたも強く頭を振った。
――と、フィエールはそれを違う意味にとったようだった。
「ふん、言えないということか? 城に着いたらたっぷりと尋問して吐かせてやる。覚悟しておくんだな」
耳元で笑みを含んだ低い声音で言われ、私は肩を竦める。
つい先ほどそこまで悪い人ではないと思ったばかりだったけれど、彼が目的のためなら手段を選ばない人物であることはこの一日で十二分に理解していた。
彼の期待しているような情報を、私が何一つ持っていないと知ったら――。
(やっぱり怖いよ……)
私は現実から逃れるようにぎゅっと目を瞑った。
――エルネストさんの笑顔が瞼の裏に浮かんだ。
彼は今どこにいるのだろう。今も私を見守ってくれているのだろうか。それともなかなか辿りつけない、いや、このまま辿りつけそうにない私に失望してしまっただろうか。
ラグもいない、セリーンも、ブゥもいない。
この世界でいつも助けてくれた人が今は誰もいない。
私一人では何も出来ないというのに。
(……本当に、何も出来ない?)
どくん、と胸が鳴った。