My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
(確かに早く食って寝ろとは言ってたけど……)
テーブルに乗ったシチューを見ながらあの時のラグを思い浮かべる。
――あんなふうに怒鳴らないで普通に言ってくれたらお礼も言えたのに。
セリーンがお姉ちゃんなら、ラグはこの世界での私のお兄ちゃんのような存在だ。口が悪くて気難しい、でもいざというときはとっても頼りになるお兄ちゃん。
(こんなこと言ったらすっごく嫌な顔されそうだけど)
そんなことを考えていると、セリーンが小さく息をついた。
「まぁ、今頃方が付いてるんじゃないか?」
「え?」
セリーンの視線を追って窓を見た丁度そのときだった。ゴォッという聞き覚えのある轟音と共にぎゃーっという複数の叫び声が聞こえてきた。
「今の!」
私は立ち上がり窓へ飛びついた。
すると、上空を点々と人のようなものが遠くへ飛んで行くのが見えた……ような気がした。
「あれってもしかして、」
「はぁ……。どうせ、あのタレメガネだろうな」
「タレメガネって……」
もしかしなくともアルさんのことだろう。
この窓から彼の姿を確認することはできないが、おそらく術で盗賊達を吹き飛ばしたのだ、あの時のように。多分セリーンの言うとおりラグではなく、アルさんが。
誰かが廊下に出た気配はしなかったけれど、彼なら窓からでも軽々と下りられそうだ。
――ラグも一緒だろうか。それにおそらく村人達の見ている中あんな大きな術を使ってしまって大丈夫なのだろうか。
外の様子が激しく気になったけれど、セリーンは心配であるし先ほどのラグを思い出すと動けなかった。
きっと後で話してくれるだろう。だから、今は大人しくしていようと決めた。……それにしても。
「今回もあっけなかったね、あの人たち」
「――待てよ」
苦笑しながら振り返ると突然がばっとセリーンが起き上がって私は驚く。
「セリーン? そんな急に起き上がって大丈――」
「あのタレメガネがいると、あの子に会えるチャンスが確実に減るではないか!!」
大声でこの世の終わりのような顔をして叫ぶセリーンを見て、私は思ったよりも全然元気そうな彼女に心底胸を撫で下ろしたのだった。
――その後、私達はシチューを食べすぐにベッドに横になった。
目を閉じるとすぐに睡魔がやってきて、私は抗いせずにただ身を委ねたのだった。