終着駅は愛する彼の腕の中


 ノエリはシレっとした顔をして、何も話さない。


 羽弥斗は特に無理な会話を探す事もなく、そのまま運転して車を走らせていた。


 ギュッと口元を引き寄せて、ノエリは何も話さない。


 
 信号待ちで車が止まると、羽弥斗はそっとノエリの手に手を重ねた。


 ん? と、ちょっとだけ羽弥斗を見るノエリ。


「ねぇ、1つだけ聞くね」

「なに? 」

「ノエリは、本当に殺してしまったの? 赤ちゃんを」


 え? 

 今、赤ちゃんって言った?

 少し耳を疑ったノエリ。


 だが羽弥斗はとても真剣な目で見つめていた。


「・・・だったら何? やっぱり、嫌いになんったんだろ? 」


 シレっとした顔で乱暴な言葉を吐くノエリ。


「別に。ただ聞いてみただけだよ、ノエリの手をずっと握っていたけど。誰かを殺してしまうような、殺意なんて感じないから」

 そう言って、ニコッと笑ってくれる羽弥斗。


 なんとなくその笑みが嬉しく感じたノエリだが、わざとムッとした表情を浮かべた。




 再び車が走り出して、羽弥斗の手が離れると。

 ノエリは握られていた手を、そっと握り締めた。


 暖かい体温。

 まるで優しく包みこんでくれるようで・・・。

 でも優しくしないでほしい・・・。

 貴方が傷つくのが嫌だから・・・。

 ノエリはそう思っていた。






 羽弥斗が車で向かったのは早杉家。

 
 駅からは車で15分~20分くらいの場所に、広くて大きなお屋敷のような家が建っている。

 羽弥斗の父瑠貴亜のお爺さんが代議士で、代々守られている広い豪邸。

 お爺さんはもう亡くなっていないが、今は瑠貴亜が党首で守っている。


 現在の瑠貴亜は新幹線の運転手はいおりて、新人指導をしている。

 その為不規則な勤務は減り、家にいる時間が多くなった。


 娘のひまわりとも良く出かけてまるで恋人のような2人。


 妻のすみれも美容研究家として自宅で仕事をしている。

 エステやボディケアなどもやっている為、お客様の出入りもよくある。



 瑠貴亜もすみれも、とても若々しくて、ひまわりの授業参観にいくと周りの保護者よりも随分若く見られ、注目されてしまうくらい。

 特に瑠貴亜が行くと、周りのお母さん達はすり寄ってくる。


 娘のひまわりは高校2年生で16歳。

 活発的な女の子でソフトボールをやっていて、髪はショートで背丈も中くらいでガッチリしている。

 ハッキリ言う性格だが、棘がないため、みんなから慕われている。


 友達も多く、いつも「お兄は新幹線の運転手だよ」と羽弥斗事を自慢している。

 最近は鉄道博物館の職員になった羽弥斗の事を話したら、友達が興味がてらに羽弥斗を見る目的で鉄道博物館に通っている子も増えている。



 一家そろってモテモテの早杉家。


 この家にはお爺さんの代から、運転手とSPがついている。


 瑠貴亜の代になっても変わらずそのままである。



 羽弥斗が車で来ると、大きな門が開いた。


 そのまま車庫まで進んで車を止めると、玄関にはSPらしき人が立っている。

「お帰りなさいませ、坊ちゃん」


 イカツイ声で言われて、羽弥斗はSPの耳元でこっそりと


「もう、そんな怖い声だしたら。初めてのお客さんが、怖がっちゃうじゃん。女の子なんだから、もっと笑って出迎えてよ」


 と言った。

「すんません」


 と、イカツイ顔をしていたSPがニコっと笑った。

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