偶然が続けば必然です!? 年下彼氏の包囲網
3章
〇マンション・廊下(夜)

マンションの廊下で見つめ合う琴葉とノア。
琴葉は戸惑っているが、ノアはニコニコしている。

琴葉(……え?)
ノア「お疲れ様です。こんな時間まで残ってたんですね」
琴葉「ええ、まあ……」
琴葉(って、そうじゃなくて!)
琴葉「……ここに住んでるんですか?」
ノア「はい、今日から」
ノア「お隣さんですね。よろしくお願いします」
琴葉「は、はぁ……」

呆然としつつ、状況を整理する琴葉。

琴葉(昨日は居酒屋で、今日は職場で……そこまではすごい偶然が重なったんだとしても、ここまで来ると怖いんですけど)

ここまでの偶然を疑い始める琴葉。
警戒する琴葉に、ノアが近づいてくる。

ノア「僕のこと、まだ思い出しません?」
琴葉「は?」
琴葉(今度は何!?)
ノア「うーん、そんなに変わってないと思うんだけど。まあ、サイズ感は変わったと思うけど。……コハ」
琴葉「コ、ハ?」
琴葉(ちょっと待って、その呼び方って……)

〇ホワイトアウト
〇庭(昼)

琴葉の名前を呼び、駆けてくる男の子。
琴葉は14歳、男の子は10歳。

男の子「コハ!」

朧気だった男の子の顔が鮮明になる。
その顔は、琴葉の前に立つノアに似ていた。

〇ホワイトアウト
〇マンション・琴葉の部屋(夜)

琴葉が自分のことを思い出したことを確認すると、部屋に返っていったノア。
琴葉も自分の部屋に入り、ベッドの上で状況を整理する。

琴葉「ノア……そうか、あの時の……」

14歳の頃、2週間のホームステイがあった。
それに参加した琴葉がお世話になった家族、それがノアの家だった。

琴葉(何がそんなに変わってない、よ!)
琴葉(めちゃくちゃ大きくなってるし! 気づくか!!)

思わず、抱えていた枕を投げる。
すると、ベッドの上に置いてあったスマホが光る。

琴葉(また、お母さんだ)
琴葉(珍しいな。いつもは連絡が多いほうじゃないのに、この前も電話あったし)

スマホを手に取る琴葉。

琴葉「はい」
琴葉の母「あら、今日は忙しくないの?」
琴葉「うっ……」
琴葉(この前のこと、根に持ってるな)
琴葉「この前はすみませんでしたー。それで今日は何?」
琴葉の母「もうノアくんと会えた?」
琴葉「……は?」
琴葉(え、ノア? どういうこと?)
琴葉「……会えたけど」
琴葉の母「ねぇ、ノアくん格好良くなったでしょ~?」
琴葉「ま、待って。なんでそう親しげなの?」
琴葉の母「だって文通してたから」
琴葉「はあ? ちょっと待って。どういうこと?」
琴葉の母「あなた、ホームステイから帰ってきてからしばらくは手紙のやり取りしてたでしょ?」
琴葉「してたけど……。ひとり暮らし始めてからは自然消滅したっていうか……」
琴葉の母「してないわよー。その間、お母さんがやり取りしてたから」
琴葉(……はあ?)

状況が飲み込めず、母の言葉をただ聞く琴葉。

琴葉の母「あ、でも安心して。別にあなたになりすましてやり取りしてたとかじゃないから」
琴葉の母「ノアくんの近況を教えてもらったり、あなたのことをノアくんに伝えたりしてて」
琴葉の母「それでノアくんが仕事でこっちに来るって言うから、あなたのマンションの空き情報を調べたの」
琴葉の母「そうしたら、隣が空いてるっていうからお母さんのほうで色々手配したのよー」

ハッと我に返る琴葉。

琴葉「なんで、そんな大事なこと言ってくれなかったの…!」
琴葉の母「言おうとしたわよ。なのに、この前、電話切るから」
琴葉(あの電話ってそれだったの……)
琴葉(というか、もっと早く相談するなりしてくれれば……)
琴葉の母「ホームステイの時はあなたがお世話になったんだし、今度はあなたが面倒見てあげるのよ」
琴葉の母「ノアくんしっかりしてるけど、わからないこともあるだろうし」
琴葉の母「知らない土地にひとりだから不安に思うこともあると思うから」
琴葉の母「いい? 仲良くするのよ。じゃあねー」
琴葉「えっ、ちょ……」

通話が切れ、唖然とスマホを見つめる琴葉。

琴葉(なんでそうなるの……!)

〇お洒落な居酒屋・座敷(夜)

就業後、ノアの歓迎会が開かれる。
ノアは女性たちに囲まれていて、琴葉は少し離れたところで様子を見ている。

琴葉(……ひとりだから不安ね)
女性1「ノアくん、お酒どれが好き?」
女性2「食べられない物とかあったら言ってくださいね」
琴葉(私が構わなくても皆構ってくれてるから平気じゃないかな……)

ウーロン茶を飲む琴葉。

琴葉(あ、あのお皿空いてる)

空いたお皿をまとめる琴葉。
注文を取りに来た店員を呼び止める。

琴葉「すみません、このお皿も下げてもらっていいですか?」
店員「かしこまりました」
琴葉「……?」

ふと視線を感じるとノアがこちらを見ていることに気づく。
目が合って微笑まれたので、愛想笑いを返す琴葉。

琴葉(私の知ってるノアは小さい男の子だったのに。お酒呑んでるのって変な感じ)

〇お洒落な居酒屋・外(夜)

時間になり、歓迎会は解散になる。
二次会に行く者、帰宅する者でグループができ始める。

琴葉(よし、帰ろうっと……)

その場を後にする琴葉。
一方、ノアは二次会に行かないかと誘われている。

女性1「ノアくん、二次会行く?」
男性1「お前の歓迎会なんだから当然行くよな?」
ノア「すみません。せっかくですけど、まだ引っ越しが終わったばかりで片付けも残ってるので今日はここで失礼します」
女性2「そっかー、残念」
男性2「それじゃ、また明日な」
ノア「はい。お疲れ様でした」

そんなやり取りを背中で聞いていた琴葉に駆け寄ってくるノア。

ノア「本条さん」
琴葉「……っ」
ノア「帰る方向、同じみたいですし、一緒に帰りましょう?」
琴葉「……いいですけど」

〇住宅街(夜)

居酒屋から離れてしばらく。
並んで歩くふたり。

琴葉(……あの場で断るのも変だし、一緒に帰ってきちゃったけど……)
琴葉(何を話したらいいんだか……)
ノア「これから別のお店に行かない?」
琴葉「え?」
ノア「本条さん、さっき全然呑んでなかったから」
琴葉(気づいてたんだ……)
ノア「あ、それとも具合悪くて呑んでなかっただけ? それなら、真っ直ぐ帰ろうか」
琴葉「心配しなくて大丈夫。体調は悪くないから」
琴葉「ただ、会社の人たちがいる場では呑まないって決めてるの。それだけ」
ノア「なんだ、そうだったんだ」
ノア「……それでどうする? 呑みに行く?」
琴葉「今、会社の人と呑まないって言ったんだけど……」
ノア「……あ」

ハッとした後、シュンとするノア。
肩を落としたその様子に既視感を覚え、悪いことをしたような気分になる琴葉。

琴葉(うっ……なんだか悪いことした気分)
ノア「それじゃ、これからは僕とも呑めない……?」
ノア「一緒に呑んだ時、楽しかったのに……」
琴葉(うっ……うう……)

〇居酒屋・店内(夜)

テーブル席で向かい合うふたり。
ノアはニコニコしているが、琴葉は苦笑している。

琴葉(断り切れずに来てしまった……)
ノア「本条さんが好きそうなお店があって良かったね」
琴葉「そうですね……」
琴葉(うーん、あのノアとお酒を呑んでるってなんだか変な感じだな)
琴葉(記憶にある姿と全然違うせいかな……)
ノア「そういえば、どうして会社の人とは呑まないの?」
琴葉(それ掘り返しますか……!)
ノア「本条さん、お酒弱くないよね?」
琴葉「弱くないけど、会社の人たちとの呑みって仕事の延長だと思ってるから、呑む気分になれないというか……」
ノア「……なるほど」
ノア「だから、さっきも呑んだり食べたりするより、お皿下げたりしてたんだね」
ノア「オフィスにいた時と雰囲気似てたからちょっと気になってたんだ」
琴葉「…………」
琴葉(本当によく見てるな……)
琴葉「あ、でも、歓迎会がつまらなかったとか退屈だったわけではないよ」
ノア「本当? 本条さんは優しいね」
琴葉「別に優しくはないと思うけど……」
ノア「でも、そっか……」
琴葉「……?」

手に持っていたグラスを置くノア。
ノアの続く言葉を待つ琴葉。

ノア「じゃあ、本条さんが美味しそうにお酒を呑むところを見られる会社の人って僕だけなんだね」
ノア「ふふ、嬉しいなぁ」

目の前でふにゃと笑うノアの表情と琴葉の記憶の中にあった昔のノアの表情が重なる。
どきっとする琴葉。

琴葉「……っ」
琴葉(目の前の人は私の知らない人って感じが強かったけど、この笑い方変わらないんだな……)
< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop