偶然が続けば必然です!? 年下彼氏の包囲網
5章
〇オフィス・会議室(昼)

書類に足を取られ転びそうになったところをノアが受け止めてくれる。
ノアに抱き締められていることにドキッとする琴葉。

琴葉(え――!?)
琴葉(笑ったところは変わらないって思ってたけど……身体はちゃんと男の人なんだな)
琴葉(……って、何考えてるの!)
ノア「……転ばなくてよかったね。……本条さん?」

琴葉の顔を覗き込むノア。
顔を真っ赤にしている琴葉を見て、ノアも顔を赤くする。

ノア「…………」

ノアが腰に回していた腕に力を込めて、更に引き寄せる。
間近に迫る顔。

琴葉(――ええ)
琴葉「……っ」

しばし見つめ合っていたふたりだったが、廊下から聞こえてくる音に我に返る。

男性1「次の会議って会議室1と2どっちだっけ?」
男性2「2だよ」
琴葉「!」
ノア「!」

咄嗟にノアを突き放す琴葉。
少し傷ついた顔をするノア。

琴葉「……か、片付けしないと。会議の時間になっちゃうから」
ノア「……はい」

ふたりは無言で片付けと準備を進める。

〇住宅街(夜)

仕事を終え、帰路につく琴葉。
頭の中では昼間のことを思い返している。

琴葉(……悪いことしたかも)
琴葉(転びそうになったところを助けてもらったのにお礼も言わなかったし)
琴葉(あの後も結局、気まずくなっちゃって最低限の会話しかできなかったから……)
琴葉「はあ……」

ため息をついたところでコンビニが目に入る。

琴葉「あ、そうだ……」

何かを思い出し、コンビニに寄る琴葉。

〇マンション・廊下(夜)

琴葉の手にはコンビニの袋。
それを持ち上げて、苦笑する。

琴葉(ノアの好きなものを買ってみたけど……好物でご機嫌取るとか子どもっぽかったかな)
琴葉(そもそも、好きなものって昔と同じ?)

ぐるぐると考えていると部屋が見えてくる。
すると、そこにはノアが立っていた。

ノア「あ……」

駆け寄る琴葉。

琴葉「何してるの?」
ノア「えっと……本条さんの好きなもの持ってきて」
琴葉「え? ノアも?」
ノア「僕も?」
ノア「……あ」

琴葉の手元に気づくノア。
お互いコンビニの袋を下げていて、琴葉は思わず笑ってしまう。

琴葉「……とりあえず、入る?」
ノア「いいの?」
琴葉「ここで立ち話も変だし、もたもたしてると溶けちゃうから」
ノア「……?」

〇マンション・琴葉の部屋(夜)

ローテーブルを挟み、向かい合うふたり。
ノアは袋から物を取り出す。

琴葉(あ、お酒。それも新作とか期間限定のチューハイばっかり)
琴葉「ノアの中で私はすっかり呑ん兵衛ってことか……」
ノア「え?」
琴葉「ううん、なんでもない」
琴葉(再会した場所も居酒屋だったし、仕方ないか)
琴葉(……そういえば、仕事が忙しくて忘れがちになってたけど、あそこで会ったのも偶然だったのかな?)

ふと考え込む琴葉。

ノア「好きなものありそう?」
琴葉「あ、うん。気になってた物もあるし」
ノア「そっか、よかった」

琴葉も袋からアイスを取り出す。

琴葉「ノアって今でもアイス好き?」
ノア「うん、好きだよ」
琴葉「……よかった。それなら、はい。どうぞ」
ノア「ありがとう」
ノア「……これってお餅入ってるの?」
琴葉「そう。お餅とあんこ入ってる。向こうではこういうアイスないんじゃないかなーと思って」
琴葉「というか、あんこ平気だっけ?」
ノア「平気だよ。前に観光でこっちに来た時、食べたことあるから」
ノア「いただきます」

アイスを食べるノア。
美味しそうに食べている。

琴葉(こう……なんていうか、気が緩んでる時の顔はやっぱり幼いんだよね)
琴葉(……知ってる男の子の顔だ)

まじまじと見つめる琴葉。

ノア「……んっ。美味しい。ありがとう、本条さん」
琴葉「それはこっちの台詞」
ノア「……? お酒のこと?」
琴葉「それもあるけど、そうじゃなくて」
琴葉「……昼間、助けてくれてありがとう。お礼言うの遅くなってごめんね」

ノアはきょとんとした後、何のお礼か気づく。

ノア「……本条さんも気にしてたんだ」
琴葉「え?」
ノア「僕も謝ろうと思ってたんだ。急に抱き締めてごめんね」
琴葉「ノアが謝る必要ないでしょ? 私が転ばないように助けてくれただけなんだし」
ノア「それはそうなんだけど……」

言い淀むノア。
そんな様子に首を傾げる琴葉。

ノア「……助けるつもりだったのは本当なんだけど、抱き締めたら離したくなくなっちゃって……だから、ごめん」
琴葉「えっ……ああ、そういう……」
琴葉(どういうこと?)

混乱しつつも、疑問に思っていることを聞くなら今ではないかと思う琴葉。

琴葉(今なら聞けるかな。思えば、再会してからゆっくり話す時間、あまりなかったし)

琴葉「あの、聞きたいんだけど」
ノア「うん」
琴葉「どうして、私のところに来たの? 偶然?」
ノア「忘れちゃったの? 迎えに行くって言ったのに」
琴葉「え……」
琴葉(……あれ? それ、最近どこかで聞いたような……)

〇(回想)ホワイトアウト

10歳程度の男の子が泣いている。
琴葉は男の子の前に膝をつき、顔を覗き込んでいる。

男の子「大きくなったら迎えに行くから」

琴葉「うん、わかった」

男の子「……絶対だよ」

〇マンション・琴葉の部屋(夜)

琴葉「あ……」
琴葉(あの夢……!)
琴葉(というか、あの夢ってホームステイ最終日の……!)

琴葉の反応に、ノアは思い出したことを察する。

ノア「だから、偶然じゃないよ?」
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