音楽のほとりで
桜はそれを聞くと、にっこりと微笑んでこう言う。
「さあ、……大学の可愛い後輩だからでしょうか」
「桜さん……」
「私だって、実は大学の頃尚に嫉妬していたんです。ピアノがなかなか思い通りに弾けない時。教授にだってダメ出しされて。だから、ルイさんの気持ち分かります」
「桜さん、私、あの時楽屋で酷いことを言っちゃいましたけど、私本当はコンクールで偶々桜さんのピアノ聞いたことがあって、本当はその時すごいって思ってたんです。だから、あの時の私の言葉忘れてください」
「ありがとうございます、そんなこと言ってくれて」
2人が話をしていると、ルイが近づいてくる。
「ねえ、せっかくだから僕の料理を皆に提供しようと思うんだ」
「え?」
レオは、あれから回数を重ねるうちに、それなりに見栄えの良いものを作れるようになっていた。
「いいでしょう?」
ルイは、南の返事も聞かずにキッチンへと行ってしまう。
「桜さん、尚さんはまだ桜さんのことが好きです。絶対に。尚さんのピアノの源は桜さんです。だから」
「ちょっといいですか」
と、そこに奏音も加わる。
「桜さん、飛行機の中で話した僕の親戚のこと覚えてます? ピアノを習いたい子どものこと」
「はい」
「フランスでも、ピアノは教えられますよ。僕が良い先生がいると紹介します」
「でも……」
「すみません、今回のフランス旅行は初めからこの予定でした。高倉尚に桜さんを届けることが今回の旅の目的です」
奏音は、はっきりとそれを桜に伝える。
それは、親猫が子猫を突き放す時のようだった。
もう、気持ちの揺れは一切ない。
桜の目の前に尚が来る。
「もう、じれったいので早く恋人同士になってください」
「そうですよ。僕も南さんと同じ意見です」
桜と尚は、顔を見合わせて互いに驚いた顔をしている。
「えっと……」
「尚さん、男らしくお願いします」
と、謎の南からのプレッシャーを尚は受け取る。
「桜」
そうして、身体全体を桜の方に向けた。
「恋人になってください。いや、もう、結婚してください」
「はいっ、喜んで」
その桜の言葉を聞いた南と奏音は、喜びの声を上げる。
「そうだ、この前ボルドーに行ったときに買ったワインが……本当はルイの誕生日に開けようと思ってたんですけど、お詫びの思いも込めて」
南の顔は、尚が見た中で一番すっきりとしていて、その表情には人間らしさがあり生き生きとして見える。