シュガーレスでお願いします!

「じゃあ、行ってきます」

「ああ、行ってらっしゃい」

珍しくお店もテレビの収録も休みだという慶太が玄関まで見送りをしてくれる。

靴ベラで踵を窮屈なパンプスの中に収めると、いつものようにクルリと反転して慶太に向き直る。

目を瞑ってムッと唇を突き出して、待つこと数秒。

「どうしたの?忘れ物?」

慶太が困ったようにキョトンと首をかしげるのを見て、正気に戻る。

「あ、ううん!!何でもない……」

毎朝の日課となっていた、いってらっしゃいのキスをスルーされた私は慌てて慶太に背を向けた。

恥ずかしくてこのまま消えてなくなりたい。

(どうしちゃったの、私……!!)

“節度を持て”と強要したくせに今、明らかにキスしてくれるのを待っていた。

まさか節度を持てと言った張本人が、それをすっかり忘れているなんて!!

それどころか、キスしてもらえなくてがっかりしているなんて、ナイナイ。ありえない!!

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