シュガーレスでお願いします!
「どうするの?今日も犬みたいにしっぽ振って待ってるわよ?」
「香子先生、彼は犬ではありません。れっきとした人間ですよ」
私を困らせる有馬慶太という存在を愉快だと公言してはばからない香子先生は、クスクスと楽しそうに彼の忠犬ぶりを一緒に眺め始めた。
奥寺法律事務所のあるマツキビルには裏口がない。つまり、正面入り口を押さえられては逃げ場がない。
顔を合わせるたび邪険に扱われると分かっていても、ひたすら私を待ち続ける彼のお尻に可愛らしい尻尾が見えなくはない。
「本当に困っているなら遠慮しないで言いなさい。うちの先生方も首を長―くして依頼を待っているわよ?」
私をからかっていた先ほどとは打って変わって、香子先生の眼光が鋭くなる。
今でこそ後進の指導にあたるべく表立って活躍することは減ってきたが、かつてはどんな相手にも食って掛かって勝訴を勝ち取ってきた敏腕弁護士の片鱗を垣間見る。
香子先生は私などより、よほど弁が立つ。
何の知識もない彼など赤子の手をひねるように簡単に言い負かしてしまうだろう。
善良な市民である彼にトラウマを植え付けるようなことをしたいわけでもない。
私はその日の仕事を終えると、歩道柵に座って待っていた有馬慶太に自分から声を掛けに行った。