シュガーレスでお願いします!
「明日から出張でいないから今日中に見せて欲しいと、先週伝えていたと思うけど……」
「すみません」
初歩的なミス過ぎて言い訳すらできず、ひたすら平謝りすると五十嵐先生は思い切り眉をしかめた。
「比呂先生、ちょっといい?」
事務所の中では話しづらい事柄なのか、廊下を指さされる。
おずおずと事務所から出ると、五十嵐先生は腕組みをし、フレームレスメガネの鼻当てを人差し指で押し上げ厳しい口調で言った。
「最近、弛んでいないか?」
自覚していた気の緩みを指摘され、うぐっと言葉を飲み込むしかない。
後学のために企業法務も勉強したいと、自分から五十嵐先生に教えを請うたのに、こんな初歩的なミスを犯してしまうなんて恥だ。
「申し開きがあるなら聞くけど?」
「いいえ。ありません。以後、気をつけます」
「ドラフトは出張から帰ってきてから見るから。それまでに仕上げておくように」
五十嵐先生はそう言うと、先に事務所の中に戻っていった。
彼の姿が見えなくなると、詰めていた息を一気に吐き出す。
五十嵐先生は大学卒業したての私に弁護士のイロハを叩き込んでくれた先輩弁護士であり、指導を受けると今でも緊張感が走る。