シュガーレスでお願いします!
甘い物が苦手な私はコーヒーを飲む際は必ず砂糖なしのブラックというのが習慣になっている。
マグカップに入れたコーヒーが冷めないうちに、現在抱えている裁判の準備書面の最終チェックをしていく。
「あ、そうそう。君島さん、一昨日お願いしておいた判例って……」
どうなっているのか確認しようと書面から顔を上げたが、私の呼びかけは事務所内に虚しく響く結果となった。
(聞こえてないか……)
皆さん、揃いも揃ってモンブランに夢中で私ひとりが蚊帳の外。
女性というのはなぜ猫も杓子も甘い物が大好きなのだろう。
……いや、女性と一括りにするのは間違っているな。
「うわ〜。良いもの食べてるなあ!!」
クライアントとの面会を終えた阿久津先生は、事務所にやってくるなり目の色を変えてモンブランに飛びついていった。
阿久津先生は香子先生顔負けの甘党で、私とは決して相容れない存在である。
阿久津先生も混ざり、事務所の中はまさに和気あいあいといった雰囲気に包まれている。
団欒に水を差すのも気が引けて、私は君島さんに進捗を確認することを一旦諦めると、パソコンに向き直り、クライアントに返信するメールを書き始めたのだった。